30冊以上の断食本を読んでみて分かったこと



以前、断食は修行だった

 皆さんもお気づきかと思いますが、本屋さんの健康本のコーナーに行くと「断食」に関する本が数多く並んでいます。私が若い頃、医学博士 甲田光雄先生の「断食」に関する本を読んだ記憶があります。先生ご自身の体験、及び経営する病院の患者さんの実例から、「断食」がいかに健康に対して効果があるかを発信されていました。「断食」で難病が直るということもすごいと思いましたが、健康体であった私には、「精神が研ぎ澄まされること」や「スタミナがつくこと」といった点が非常に魅力的に感じられました。しかし、今のように数多くの断食本が本屋に並んでいる状況ではなく、「断食」は「修行」の一環のように思われ、敷居が非常に高く感じらたのも事実です。

最近の断食ブームとオートファジー

 最近になって、「断食」が広く注目されるようになったのは、東京工業大学教授 大隅良典先生がオートファジーの仕組みを研究し、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことが大きく影響しています。細胞内の栄養素が不足することでオートファジー(飢餓状態下で細胞が自らの一部を分解し、細胞内のゴミ処理だけでなく、資源のリサイクルなどに寄与)が活性化されることが分かり、「断食」に科学的なお墨付きが与えらました。また、オートファジーは1日以上の本格的な断食をせずとも活性化する(12時間でも活性化)ことが報告され、「朝食を食べないプチ断食(16時間断食)」的な、誰でも取り組みやすい方法でも断食として効果があることが分かったこともブームを後押ししていると考えられます。

 タイトルに「断食(ファスティング)」というワードが含まれる本がどれくらいあるのかをアマゾンで調べてみました。その結果、すべてを漏れなくフォローするのが大変な数(約900冊)の本がひっかかりました。以下、主だったものを年代順に記します。

・奇跡が起こる半日断食(甲田 光雄、2001年)
・やせる! 病気が治る! 石原式「朝だけ断食」(石原 結實、2003年)
・朝だけ断食で、病気を治す 症状別50の処方箋 ―薬はイラナイ! (石原 結實、2004年)
・プチ断食健康法 (石原 結實、2005年)
・断食の本(北川 八郎、2006年)
・体を浄化する毒出し断食 (藤本 憲幸、2009年)
・朝だけ断食で、9割の不調が消える!(鶴見 隆史、2015年)
・「おうち断食」で病気は治る(森 美智代、2016年)
・脳がよみがえる断食力(山田 豊文、2016年)
・3日で人生が変わる 究極の断食力(田中 裕規、2016年)
・週1断食で万病が治る (三浦 直樹、2016年)
・Dr.小林流ファスティング(小林 曉子、2016年)
・断食の教科書(森 美智代、2017年)
・腸活 酵素断食(白石 光彦、2017年)
・月曜断食(関口 賢、2018年)
・命を削る断食・小食 断食の効果はステロイドのように一時的(小西伸也、2018年)
・「週末断食」でからだスッキリ!(田中 裕規、2019年)
・エグゼクティブファスティング(中村 利恵、2019年)
・「断食力」で脳と体が若返る(山田豊文監修、2020年)
・間欠的ファスティング (菊池 尚樹、2020年)
・人生が好転するファスティング(島田 旬志、2020年)
・”空腹”が健康をつくる ―1日2食のプチ断食―(三浦 直樹、2020年)
・35年以上の断食経験 70代現役医師が実践する 12時間断食(石原 結實、2020年)
・プロラボ式 朝だけファスティング(新屋 信明、2021年)
・医者が教える 健康断食 (ジェイソン・ファンら、2021年)
・玄米断食(荻野 芳隆、2021年)
・気まぐれ断食(石川威弘、2021年)
・トロント最高の医師が教える 世界最強のファスティング (ジェイソン・ファンら、2021年)
・オートファジーで細胞からととのう 3days断食(鶴見 隆史、2021年)
・16時間断食(青木 厚ら、2022年)
・シリコンバレー式 心と体が整う最強のファスティング (デイヴ・アスプリー、2022年)
・最新版 朝だけ断食で、9割の不調が消える!(鶴見 隆史、2022年)
・ファスティングの条件(神野 恵子、2023年)

 断食に関して少し前から非常に気になっていることがありました。『「朝たん」という用語もあるほど、朝食にタンパク質を摂る重要性が提唱される中で、朝食を抜いても本当に問題ないのか?』という点(60歳ともなると、フレイル対策も気になります)。また、多くの断食本があるけれども、「安全で実施し易く、効果がある断食法はどれなのか?」という点です。定年を迎えて十分に時間が出来たこともあり、ようやく落ち着いてこれらすべての本に目を通すことが出来ました。

お勧めの断食本3冊

 断食を勧める本の著者には医者、断食塾の主催者、及び断食経験者等が多いです。断食の効果には個人差が大きいので、多くの体験例を知る著者の方が信頼性が高いのは間違いありません。しかし、たくさんの断食本があるので、時間によほど余裕がない限り、どの方法に従って断食すればよいかを見極めることは不可能に近いと思われます。そこで、これを読んでおけば「断食」に関する情報を凡そ網羅できると思われる本を独断ではありますが以下に挙げたいと思います。

・プチ断食健康法 (石原 結實、2005年)
 著者は、断食本を含めて数多くの健康に関する本の著作がある医師で、テレビやメディアにもよく取り上げられるので、ご存じの方も多いことでしょう。先生は1985年から断食施設を伊豆高原に設立され(伊達公子、野口健らの著名人もリピーターであることがHPに記されています)、そこでの経験も踏まえたニンジンリンゴジュース断食を提唱されています。この本は、今の断食ブームが始まるよりずっと前に書かれたものですが、オートファジーが発見される以前に書かれたことがにわかに信じられないくらい、現在謳われている断食法と考え方が一致しています。なお、今ほど「断食」がポピュラーでなかった分、著者の最近の著作と比べても断食に関する説明が丁寧で非常に分かり易いと思います。 

・「断食力」で脳と体が若返る(山田豊文監修、2020年)
 ムック本なので短時間で「断食」を理解するのにはうってつけです。ちなみに、監修された山田豊文氏はアスリート(白鵬関、落合博満、工藤公康、筒香嘉智、アントニオ猪木、小川直也、横峯さくら等)に対して「断食」を取り入れた食生活のサポートをし、彼らの活躍を支えました。

・命を削る断食・小食(小西伸也、2018年)
 これだけ多くの断食本が出版されているにもかかわらず、断食を否定する本はこれしかないようです。そういった意味では非常に貴重な本です。著者自身が28年間の菜食、断食、小食生活とその後15年間の「糖質制限 + 肉食」の経験、及び治療院にて1000人以上の食事法を指導する経験から、断食・小食の問題点を指摘されています。断食を試そうとされる方は、是非一読されることをお勧めします。

 「断食」には体内でのエネルギー代謝を変えたり、脳に快感をもたらす効果のあることが科学的に分かっています。したがって、その人に合った断食法であれば、スタミナ増強、免疫改善、精神面の充実、体質の改善、病気(アトピー、糖尿病など)の治癒など、多くの効果が期待できるでしょう。一方で、多くの人に効果をもたらす断食法であっても、自分には合わない可能性があることを忘れないことが大切です。その証拠の一つに、Amazonにおいて各種の断食本に対するコメント欄を見ると、評価の高い本でも「自分には合わなかった」というコメントが散見されます。

 当初、「多くの本を読めば、断食に関する共通した結論が得られるのではないか」と期待していましたが、そう甘くはないようです。また、先述した「高齢者が朝食を抜くと筋肉維持に悪影響があるのではないか?」という疑問に関しては、いずれの本からも明確な回答が得られませんでした。そういったことを踏まえて、まずは上述でお勧めした断食本を読んで、自分で納得できる断食法を実践されるのが良いと思われます。

 

まとめ

① 個人差(これまでの食生活、性別、年齢、体重、体調等)があるので、全員に有効なひとつの断食法が存在するはずがないことは、少し考えれば思いつきます(しかし、この当たり前のことが多くの本に記載されていないことが気になります)。そもそも、何を目的に断食するのかも、個々人で異なります。したがって、専門家の指導の下で断食を行うことが本来は必要でしょう。

② 断食を肯定する本だけでなく、断食を否定する本上述)も是非読んでみて下さい。気づきが得られると思います。

③ 専門家につかずに自分のみで断食を始める場合には、いきなり本格的な断食をせずに、「週1回の断食」か「16時間断食(朝食抜き)」をまずは試してみるのが良いでしょう。

追記2023.12.26

 投稿「ケトン体質となるにはココナツオイルでなくMCTオイルが良い理由」にも記載しましたが、断食によってもケトン食(糖質制限 + 高脂肪食)同様に血中のケトン体濃度が高まることが報告されています。そして、ケトン体が産生されるとオートファジーが進むことも報告されています。

 それでは、断食とケトン食のどちらが健康のために優れているのでしょうか? アスリートの健康やパフォーマンスへの影響を過去文献を抽出して比較した論文が2022年に発表されていますが、さらなる検討が必要でどちらが優れているかという結論には至っていません。