新型コロナ後遺症(long COVID)と対策



 

新型コロナ再感染で後遺症のリスクが高まる

 2022年12月2日に世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は定例の記者会見で、新型コロナウイルス感染症について「世界人口の9割はなんらかの免疫を獲得している」と述べました。また、厚生労働省は、2023年1月19日現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内感染者数は3182万人発表しています。また、厚生労働省が新型コロナウイルスの感染歴を調べる抗体検査を2022年11月6~13日に全国の8260人の献血血液に対して実施した結果、全国で26.5%が新型コロナウイルスに対する抗体を保有していることが報じられています。したがって、これを読んでいる方の中には既に感染を経験された方も多いでしょうし、そうでなくても、いつ感染してもおかしくない状況にあることは間違いありません。再感染した場合に死亡、重症化、及び後遺症の発生リスクが高まること(下記⑤参照)が報告されていることもあり、感染経験の有無に関わらず感染は防ぎたいものですが、その対策には本ブログのランキング(新型コロナ[第8波]対策)をご覧いただければと思います。

 ここでは、新型コロナ後遺症に関する知見を紹介したいと思います。WHOによると、回復した感染者の10%~20%が後遺症に苦しんでいるとみられている一方、明確に「後遺症である」と診断する基準は定まっていません。新型コロナ後遺症は、免疫機能の問題、感染後も体内に残留しているウイルス、及び血栓の発生などが原因として有力視されていますが、はっきりとした原因の解明には至っていません。もしも、「感染後も体内に残留しているウイルス」が原因であれば、投与後4日目のウイルス量が1/30に減じるとされるゾコーバ(塩野義製薬株式会社)が後遺症対策として有効かもしれません。このあたりの詳細は、今後、分かってくることでしょう(【追記】2023年2月に塩野義製薬は、臨床試験に参加した人の6カ月間の追跡調査において、喉の痛みや倦怠感などの症状が継続するリスクが、プラセボを服用した人と比べて45%減少したと発表しました)。

新型コロナ後遺症に関わる知見と対策

①女性及び新型コロナ感染で入院した患者において発症が多い
 新型コロナの長期後遺症になる確率は、「女性患者」及び「入院が必要となった患者(特に集中治療室に入院した患者)」で高いという研究結果(米国医師会雑誌[JAMA])がForebsで紹介されています。

②初期の疾患の重症度に関係なく、「疲労(倦怠感)」が最頻の後遺症であり、感染2年後も55%に後遺症がみられる
 中国において、2年に渡り既感染者の健康状態を調べた研究結果が、2022年5月 Lancet Respiratory Medicineに報告されました。この報告によると、初期の重症度にかかわらず、健康関連の生活の質(HRQoL)、運動能力、及び精神衛生状態は2年間を通して改善し続けましたが、約半数に2年後も後遺症が残ったということです。

 WHOの報告(10%~20%)よりもかなり高い割合と思われますが、茨城県の調査では約半数に、山梨県の調査では38%に後遺症がみられたと報告されていることからも、かなりの割合で後遺症が生じる様です。


③運動能力が大幅に低下し、女性では平均10歳の加齢に相当する
 新型コロナウイルスに感染した人は多くが、回復後も運動するのがつらいと感じているという結果がみられ、その他の病気に感染した場合よりもその傾向が強くみられるという研究結果(米国医師会雑誌[JAMA])がForebsで紹介されています。後遺症がある40歳の女性の運動能力は、感染していない50歳の女性とほぼ同じ程度に低下しているそうです。


④新型コロナ経験者は冷え込む朝に「脳梗塞の発作」に注意が必要
 新型コロナウイルスに感染した後は、1年経っても脳卒中のリスクが高い(脳出血:約2.2倍、脳梗塞:約1.5倍)ことが、2022年9月 Nature Medicineに報告されました。感染による血管内皮の障害は、あらゆる臓器のあらゆる組織に生じる可能性があるので、新型コロナの合併症や後遺症は、全身のさまざまな臓器や器官に起きます。これからは、朝の冷え込みが厳しくなるので、朝の血圧が高くなる早朝高血圧に注意が必要です。対策を含めた詳細は、この記事(東洋経済オンライン)をご覧下さい。


⑤再感染した人は後遺症のリスクが高い 
 新型コロナウイルスに再感染すると、肺の機能に関連する後遺症は1回感染の人の3.54倍、心臓など循環器関係の後遺症は3.02倍、疲労感は2.33倍、胃腸など消化器関連の後遺症は2.48倍、腎臓関連の後遺症は3.55倍、メンタルヘルス面での後遺症は2.14倍、糖尿病は1.7倍リスクが高まることが2022年11月 Nature Medicineに報告されました。


新型コロナウイルスは腸内細菌叢のバランスを乱し、2次感染を引き起こす可能性がある
 新型コロナウイルスへの軽度の感染でも、腸内細菌叢の多様性が低下するために、細菌が血液へ移行するのを防御出来ずに他の感染症に感染しやすくなる可能性があることに関して、2022年11月 Nature Communicationsに報告されました。


⑦新型コロナ後遺症対策としてBスポット療法が有効か
 ヒラハタクリニック院長 平畑光一先生によると、コロナ後遺症の患者には上咽頭の炎症が高頻度で起きているとのことです。塩化亜鉛溶液を浸み込ませた綿棒で上咽頭を擦る治療(上咽頭擦過療法: Epipharyngeal Abrasive Therapy[EAT])は、「Bスポット療法」として知られています。コロナ後遺症に対する本治療法が有効な可能性が、2022年4月に報告されています。ランキングでも紹介していますが、「鼻うがい(上咽頭の洗浄)」や「マウステーピング(口テープ)」が「Bスポット療法」には及びませんが、新型コロナ後遺症対策として有効とされています。【追記2023.10.03】投稿で紹介した「水素吸引」も上咽頭の炎症に対して効果が期待出来ます。


⑧漢方薬も新型コロナ後遺症対策として有効
 一般に、感染症後の全身疲労の病態は漢方医学では気の欠乏と考えられているため、補薬による治療が気を補うための主要な処方箋となり得ることが、2022年6月に報告されました。岡山大学病院では、新型コロナ後遺症患者に対して、補中益気湯、当帰芍薬散、良桂樹甘湯、十全大補湯、半胡木墨湯、葛根湯、人参養栄湯、五苓散、六君子湯、及び桂子茯苓丸などが処方されましたが、「補中益気湯」が71.6%と最も多く処方されました。ちなみに、補中益気湯及び葛根湯は、新型コロナ感染予防にも有効と考えられています(ランキング_補中益気湯、葛根湯)。


 2023年10月にペンシルベニア大学が、「新型コロナ後遺症で見られる症状の一部は、脳と体の間で情報伝達を担う神経伝達物質セロトニン濃度の低下で説明がつくかもしれない」と世界的に権威のある学術誌Cellに発表しました。これは、新型コロナ後遺症の診断や追跡、そして治療法の開発に繋がる可能性があり、今後の展開が期待されます。