プロバイオティクス(乳酸菌など)が抗生剤投与後の腸内フローラの回復を妨げるという報告



 投稿「腸活のために難消化デキストリン 、イヌリン、フラクトオリゴ糖のうち どれが良いか?」の中で「気掛かりな報告を見つけたので、またの機会に紹介したい」と記しながら、なかなか取り上げられずにいましたが、今回 ご紹介する運びとなりました。

 というのも、趣味の渓流釣りで釣り針を親指に突き刺してしまい、整形外科で抜いてもらった後に抗生物質を3日間飲むことになったからです(間抜けなことに今回で2度目)。日頃、腸活を意識している私としては腸内細菌叢を乱してしまう抗生物質の摂取を避けたいところですが、最近話題の劇症型溶連菌感染症が怖いので そんなことを言っている場合ではないと考えました。

抗生が腸内フローラに影響を与える

 「腸内細菌叢を乱してしまう抗生物質の摂取は避けたい」と先述しましたが、そんなイメージがあるだけで詳細はよく知らなかったので まずは根拠となる論文を探しました。

 2011年の論文によると、ニューキノロン系の抗生物質 シプロフロキサシンの5日間投与(被検者3人)において、腸内細菌のプレートによる生菌数カウントは 1.3 × 104 ~ 1.6 × 107 cfu/mL(投与前)から7.5 × 103 ~ 2.2 × 105 cfu/mL(投与後)へと最大で1/100に減少しました。また、各被験者のシプロフロキサシン投与開始から3〜4日以内に腸内フローラは異なる状態(多様性の低下)へと劇的に変化しました。なお、投与終了後1週間内に腸内フローラは初期状態に戻り始めましたが、その戻りは不完全(初期と異なる腸内フローラの構成)なことが多く認められました。これは、予想していた通りの内容といえます。

プロバイオティクス抗生剤投与後の腸内フローラを整える

 抗生物質で胃がんの原因となるピロリ菌を除菌することはよく知られていますが、その際にミヤBM(酪酸菌)などのプロバイオティックスも併せて処方されるのが一般的です。これは、抗生物質による副作用(下痢や腸内環境の乱れ)を軽減すること、及び 除菌成功率が向上する可能性があることが報告されていることによります。

プロバイオティクスが抗生剤投与後の腸内フローラの回復を妨げる

 本見出しは、先の見出しの内容とまったく逆の内容なので混乱するかと思います。この論文は2018年に発表されたもので、抗生物質(シプロフロキサシン、メトロニダゾール)の7日間行投与において、「プロバイオティクス(乳酸菌サプリなど11株の製剤)」投与群と、投与しない群に分けて比較しました。腸内微生物の多様性、特定菌群の復元率、腸内バリア機能の改善度などを指標に評価したところ、抗生剤投与後の腸内回復において、プロバイオティクスは必ずしも「助け」になるわけではなく、一部のケースでは「逆効果」になり得ることが分かりました。したがって、個体差や腸内微生物の状態に応じて慎重に抗生物質を選択し使用すべきという内容です。


まとめ

 「ピロリ菌除菌における抗生剤とミヤBM」のように臨床例がある場合を除いて、個々の体質や腸内環境によって影響が異なるため、抗生剤と併せたプロバイオティクス(乳酸菌など)の摂取には注意が必要です。

 であれば、抗生剤摂取時には腸内細菌の餌となるプレバイオティクス(腸内細菌の餌)を意識して摂ることが重要でしょう。先述したように抗生剤で腸内細菌は最大で1/100に減少(全滅ではない)してしまいます。その生き残った腸内細菌に意識して餌を与えることにメリットはあってもデメリットはないはずです。「プレバイオティクス」として何が良いのかに関しては、投稿「腸活のために難消化デキストリン 、イヌリン、フラクトオリゴ糖のうち どれが良いか?」をご参照ください。

 今回の内容は、この分野の専門家にはよく知られた話題ではあるのでしょうが、一般には殆ど知られていない内容かと思います。そして、「抗生剤とプロバイオティクスを併せて飲むリスクがあるのであれば、一体どうすればよいか?」に関しては 探しても情報がありません。しかし、少し考えれば上述のような最適解も得られます。