新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と漢方

 武漢市(中国)でのCOVID-19の感染拡大にともない、中国全土から医療関係者約42,000名が集結し、そのうち約4900名が中医学(中国の伝統医学)を取り入れた治療を行いました。「中医学と現代医学を併用した治療」が「現代医学のみの治療」よりも有意にCOVID-19肺炎患者の症状軽減、病程の短縮、完治率に貢献したという結果が、武漢市の湖北省中西医結合病院を退院した患者の診療記録から得られています。しかし、中国、台湾、及び韓国において治療ガイドラインに組み込まれて臨床経験も積み重なってきている「清肺排毒湯」は日本では処方が認められていない漢方薬です。

 したがって、日本においてCOVID-19に対して漢方薬を利用するとなると「感染予防」が中心になります。漢方では、「生体防御機能が整っていれば、ウイルスは体内で増殖できない」という概念があります。ちなみに、武漢市でCOVID-19治療に携わった医療者 約4900名はそれぞれ自分に合った生薬を服用した結果、一人も感染者が出なかったといわれています。

COVID-19感染予防と補中益気湯、葛根湯

 2021年に日本から報告された27人の医療従事者が参加した後ろ向き研究(現在の結果から過去の要因に遡ってデータを収集、解析するもので、ランダム化比較試験よりエビデンスレベルは低い)において、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)と葛根湯を食前に1日に2~3回(5~7.5 g/日)を28日間連続して摂取し、14日目と28日目に採血して分析した結果、感染防御能力の指標となるNK細胞及びT細胞の数、NK細胞の細胞障害活性、T細胞の総数、及びCD4/CD8陽性細胞が増加することが分かりました。この結果は、補中益気湯と葛根湯の摂取による免疫調節効果を通じてCOVID-19の発症を予防出来る可能性を示します。なお、腹部不快感、軟便、及び下痢が若干名(~5名)みられましたが、重篤な副作用はありませんでした。

 現在、補中益気湯単独(葛根湯は併用せず)でCOVID-19感染予防に有効か否かを調べるために、日本の7病院の職員6000人が参加するランダム化比較試験(エビデンスレベルが高い)が実施されている最中です。

補中益気湯とは

 処方として生産高1位の漢方薬のベストセラーです。十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)と共に「補剤(体力を充実させ、生体防御機能を整える)」と呼ばれる漢方薬の代表処方です。共に病中病後の体力低下や疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、及び抗がん剤による副作用軽減のために用いられます。人参、白朮、黄耆、当帰、陳皮、大棗、柴胡、甘草、生姜、升麻という10種類の生薬が成分です。十全大補湯とは四つの成分(人参、白朮、黄耆、当帰)が共通します。ちなみに十全大補湯は中華料理の薬膳スープとしても有名です。

補中益気湯副作用

 漢方薬は天然物由来なので安全なイメージがありますが、必ずしもそうではないことに注意が必要です。中国最古の薬物学書では生薬を3種類に分類しています。一年の日数に合わせた365種の薬物を上品(じょうほん、120種)、中品(ちゅうほん、120種)、及び下品(げほん、125種)に分類しており、大棗(ナツメ)、山薬(ヤマイモ)、独活(ウド)など毒性がほとんどなく長期服用可能なものが上品に当たります。一方、附子(トリカブト)など作用が強いが毒性も高いものが下品に当たります。ちなみに補中益気湯に含まれる10種類の生薬はいずれも上品に分類されているので、安全性は高いと考えられます。それでも、補中益気湯の副作用として発疹、蕁麻疹、食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢などが報告されているので、このような症状に気づいたら服用を止め、医師又は薬剤師に相談することが重要です。

ドラッグストアで購入可能な補中益気湯とは

 日本においては、風邪薬として用いる葛根湯を除いては西洋薬に押され気味で目立たない漢方薬ですが、5~6世紀には日本に伝わったといわれており、江戸時代に西洋医薬が日本に入ってくる以前は、医学といえば漢方でした。明治時代に西洋化を目指す新政府は漢方医学廃絶へと舵を切り、漢方は極端に衰退しました。民間レベルで伝えられていた漢方は1950年に日本東洋医学会の設立以降、徐々に復権し、1976年には漢方エキス製剤が薬価基準に収載され、医薬品として健康保険医療に導入されました。したがって、現在では漢方薬を医師に処方してもらうことが可能です。

 一方で、ドラッグストアでも漢方薬が積まれた一画があるのをご存じでしょう。そうすると、「ドラッグストアの補中益気湯と医師が処方する補中益気湯は同じなのか?」という疑問が湧くと思います。答えは、ドラッグストアで購入可能な漢方薬は、通常、不特定多数の人が服用しても副作用などが生じにくいように、1日に服用する成分量が50%~80%程度に抑えられています(下記参照)。




まとめ(コスト計算を含む)

 日本では、漢方薬が西洋薬に比べて目立たないために、補中益気湯がCOVID-19感染予防に有効な可能性が高いという情報は殆ど知られていないと思われます。ウイルスが次々と変異し、それに対するワクチン製造 及び 接種がままならない非常時には、生体防御機能を整え 且つ 安全性の高い補中益気湯は非常に有効な対策となり得る可能性が高いと思われます。上述のように、現在、大規模なランダム化比較試験が実施中で、いずれ結果が発表されると思われますが、現時点では、感染予防のために毎日飲み続けるのではなく、大事な行事(例えば入学試験)に備えて(長くても1ヵ月間)摂取するのが良いと思われます。下記の製品はアマゾンで24日分が約3500円で購入でき、1日当たり約150円です。

【参考資料】

・小川恵子 「COVID-19 感染症に対する漢方治療の考え方(特別寄稿)」日本感染症学会HP
・渡辺賢治 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する未病漢方活用法」漢方産業化推進研究会HP