持久力向上に効果があるもの: ケトン体質、腸内フローラ、アスタキサンチン、β-アラニン、水素吸引





日本で一番「 持久力」が必要な山岳レース

 日本一過酷な山岳レース「トランス・ジャパンアルプス・レース(TJAR)」が今年8月に開催されました。日本海(富山湾)から北アルプス・中央アルプス・南アルプスを縦断して太平洋(駿河湾)までの約415 kmを自分の足のみで走破する競技です。平たん路でも厳しい415 kmですが、下記に示すような高所(累積標高差27000 m)がルート上にはあります。しかも、レース中は荷物の持ち運び・食事・テントの設営などを参加者自身が行う必要があります。

コース中の標高グラフ(ヤマレコHPより



 2002年から2年毎に開催されているのですが、山登りを趣味としている私でさえ 大会を知ったのは2022年大会を扱ったNHKの番組を観たときで、それまでは名前さえ聞いたことはありませんでした。恐らく、一般には余り知られていないレースだと思われます。

 今年の優勝者は、前回2022年大会に続き ⼟井 陵 選手でした。2年前の番組での彼の強さの印象が余りにも強く、「やはり彼が勝ったのか 」と思いました。2022年大会では⼟井 陵 選手が4日間17時間33分で2位(5日間14時間07分)に圧倒的な差をつけての優勝でしたが、今年の記録は5日間1時間26分と前回の記録には及びませんでした。

 このタイムを聞いても そのすごさが分かりにくいのですが、睡眠時間を聞くとその過酷さが分かるかと思います(Number Web)。1日目は眠らず、横になって眠ったのは2日目からで、それも2日目に20分、3日目に 80分といった具合で、約5日間のレース中に計4時間半しか寝らなかったそうです。

持久力と「ケトン体質」

 ライバルとの差別化の観点から 背負う食料をいかに減らすかも重要で、そのために全行程での消費カロリー 33,355 kcalに対して 実際の摂取カロリーを17,400 kcalにまで減らしたそうです。これが出来たのも、体内に蓄積された脂肪をエネルギーとして使える「ケトン体質」になっていたからと思われます。実際に土井選手はインタビューで「身体を脂質代謝優位に変えるため、朝起きて何も食べずに20 km走るルーティンを7年ほど続けている」ことを明かしています。「ケトン体質」に関しては投稿「ケトン体質となるにはココナツオイルでなくMCTオイルが良い理由」をご覧下さい。

 さらに、世界最高峰のトレイルランニングレースとして知られるウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB、約170 km、累積標高差9889 m)で2009年に3位に入賞した鏑木毅の著書「究極の持久力」によると、鏑木 氏がプロに転向して1996年にトレイルランニングの本場 アメリカで合同練習に参加した際、30年近く前にも関わらずカーボローディングを実践していたのは鏑木 氏だけで、他の参加者は皆「ケトン体質」を意識した食生活をしていたそうです。

持久力と「腸内フローラ」

 腸内フローラを良好に保つことが健康のために重要で、腸内フローラが「筋肉」にさえ影響することを投稿「腸活には難消化デキストリン 、イヌリン、フラクトオリゴ糖のどれが良いか?」でご紹介しました。

 
 そして、腸内フローラと「持久力」のつながりに関して、慶應義塾大学 福田 真嗣 特任教授が興味深い論文を発表(2023年)しています。その論文では、日本人の大学駅伝を専門とする男性長距離ランナー48名を対象に腸内細菌叢を解析し ヒトの腸内細菌種であるBacteroides uniformisが持久力運動と関連することを同定しました。また、ヒト男性に本細菌の餌となるα-シクロデキストリンを補給すると本細菌が腸内で増加し、持久力運動のパフォーマンスが向上すること、また運動後の疲労感を改善することが分かりました。持久力向上のメカニズムとしては、「Bacteroides uniformisが運動により増加した乳酸から 短鎖脂肪酸を産生し、それが運動中の肝臓におけるグリコーゲン分解と糖新生を促進して持久力向上に貢献する」と推察しています。

 
 本ブログでは、これまでに腸内細菌の餌(プレバイオティクス)となる難消化水溶性植物繊維としては 難消化デキストリン 、イヌリン、フラクトオリゴ糖を推奨していますが、さらに α-シクロデキストリンを追加したいと思います。トウモロコシの でんぷんを酵素処理した後に精製したもので、安全性は非常に高いと考えられています。値段は他に比べると高めですが、他製品とローテーションして用いる分には許容できる範囲かと思います。なにしろ他にはない持久力が向上し疲労感が減ることが期待出来ることから、私はさっそく取り入れたいと考えています。



持久力と「アスタキサンチン」

 鮭の身が紅いのは「アスタキサンチン」が含まれているからだと聞かれたことがあるかもしれません。アスタキサンチンは、人参のβカロチン同様にカロテノイドの一種です。何十キロも川を遡る際に鮭の体には多くの活性酸素が発生します。この活性酸素の害を防ぐのが抗酸化活性のある「アスタキサンチン」です。なお、鮭がアスタキサンチンを作り出すのではなく、藻類(ヘマトコッカス藻など)で産生された「アスタキサンチン」が、プランクトン、小エビ等を経た食物連鎖の結果、鮭に存在することも分かっています。

 生理作用は「抗酸化活性」以外にも「抗炎症作用」、「血流改善作用」、「血圧上昇抑制」、「脂肪組織、体重増加抑制」、「脂肪肝の改善」、「インスリン抵抗性改善」、「眼精疲労改善」、「眼疾患に対する効果」、「肩こり改善」、「虚血性疾患に対する効果」、「ピロリ菌抑制」などと 非常に多岐に渡って報告されています。さらに、「筋肉障害抑制」、「筋肉疲労改善」、「体脂肪の消費促進」、「スポーツ視野機能向上」のようなスポーツにおける効果も報告されています。

 鮭に含まれるアスタキサンチン量は 約30 mg/kgなので、推奨摂取量6~12 mgを摂取するには少なくとも鮭を毎日 2切れ(200 g)以上食べることが必要です。しかし、これは一般的に難しいので、足りない分はサプリメントで摂取するのが現実的でしょう。市販サプリメントはヘマトコッカス藻から抽出した製品が大半です。多くの研究結果 や 有害事例の報告がないことからも、安全性は非常に高いと考えられています。なお、摂取にあたり留意したいのは、アスタキサンチンは油と一緒に摂取することで吸収率が高まることから、食中もしくは食後の摂取するのが望ましい点です。



持久力と「イミダゾールジペプチド」、「β-アラニン」

 「イミダゾールジペプチド(通称:イミダペプチド)」は渡り鳥の羽の付け根の部分や回遊魚の尾びれに多く含まれ、その強力な抗酸化活性により 体内で発生する活性酸素を除去し、渡り鳥や回遊魚の強靭な「持久力」を支えている要因とされています。先述した鮭に存在する「アスタキサンチン」と原理は同じです。

 2003年に 7 大学、食品メーカー・医薬品メーカーなど 19 社、及び大阪市で構成された産官学連携の「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」において食品成分23 種の疲労に対する効果を調べたところ、イミダゾールジペプチド、コエンザイム Q10、アップルフェノン、クロセチン、クエン酸、オルニチンなどで抗疲労効果が確認され、中でも「イミダゾールジペプチド」が最も優れた効果を示したということです。ちなみに、食品成分23 種 に「アスタキサンチン」が含まれていたか否かを調べましたがよく分かりませんでした。

 なお、科学論文検索サイト(Pubmed)で「イミダゾールジペプチド(Imidazole dipeptide)」と入力して検索しても、「疲労」に関わる論文が1件しかヒットしてこないことが分かりました。その理由は、恐らく以下のことが関係していると思われます。イミダゾールジペプチドは比較的新しい用語のようで、従来はHRD(Histidine-related dipeptides)とか個別名称のカルノシンなどと呼ばれてきました。そして、カルノシンはβ-アラニン(非必須アミノ酸)とヒスチジン(必須アミノ酸)からなるジペプチドであり、ヒスチジンは生体内に豊富に存在する一方で、β-アラニンの量は限られていることから、食事やサプリメントから β-アラニンを摂取するのが カルノシン産生において重要なことが分かっています。一方でイミダゾールジペプチドを摂取しても、いったんβ-アラニンとヒスチジンに分解された後に骨格筋や脳でイミダゾールジペプチドが合成されることから、安価なβ-アラニンを摂ることで事足りるという訳です。

 確かにPubMedに「β-アラニン(β-alanine)、疲労」と入力すると140件もの論文がヒットします。したがって、科学論文やアスリートの界隈では「イミダゾールジペプチド」よりも その構成成分である「β-アラニン」を摂ることが常識となっていることが分かりました。なお、サプリメントの製造法には化学合成法(原料:アクリルアミド)と発酵法(酵母利用)がありますが、発酵法による製品を選ぶのが安全性の観点から重要でしょう。




持久力と「水素吸引」

 「アスタキサンチン」、「イミダゾールジペプチド」の どちらもが抗酸化活性により活性酸素を除去することで「持久力」を向上するとすれば、「水素吸引にも同様な効果があるのでは?」と考えるのは「水素吸引」に関心がある方(投稿「先進医療として認可された水素吸引を月額4950円で始めました」をご覧下さい)であれば自然の流れかと思います。調べてみると、予想通りにそのような効果が報告されていることが分かりました。

 宮川路子 医師の著書「最強の水素術」によれば、2020年東京オリンピックのウェイトリフティングで銅メダルを獲得した安藤美紀子 選手は、睡眠中に「水素吸引」をして、疲労回復や怪我の治りが早いことを実感しているということです。他にも競輪、野球、サッカー等々、プロアスリート間では水素の疲労回復効果が広まりつつある一方で、ライバルに知られたくないために内緒にしている選手が多いそうです。

まとめ

 「持久力」と聞くとアスリートを連想し、自分には関係がないと思われるかもしれません。しかし、「持久力」を高められれば、日常生活の質を高められることは想像に難くありません。したがって、この投稿では、運動による心肺機能の向上などの観点ではなく、食事やサプリメントにより体内の代謝を変えて「持久力」を高める といった観点から纏めました。

 ところで、「ケトン体質」の重要性が知られるようになったのは、サッカー日本代表 長友佑都 選手の食事法が知られるようになったからではないかと思われます。「ケトン体質」というと、敷居が高く思われるかもしれませんが、長友選手の場合、糖質とタンパク質と脂質のバランスを3:3:4に保つことを心がけており、具体的には糖質を一食当たり60 g(一般人であれば40 g)摂る、ちまたではロカボ(low carbon)といわれる緩い糖質制限になります(NumberWeb)。

 持久力向上のための サプリメントとして「α-シクロデキストリン」、「アスタキサンチン」、「 β-アラニン」を摂ることが有効として纏められているのは、恐らくこのブログだけではないか思います。 私は、先述した「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」の結果を知り、「イミダゾールジペプチド」と「クエン酸」をサプリメントとして7年間以上摂り続けてきましたが、今回 取り上げた挙げた「α-シクロデキストリン」や「アスタキサンチン」は、最近まで「持久力」に効くことを知りませんでした。また、「イミダゾールジペプチド」と「β-アラニン」の関係も、今回調べる中で初めて知りました。

 さらに、「水素吸引」も活性酸素除去による老化防止という観点のみで考えられがちですが、「持久力(疲労回復)」に対する効果もあるということで、私も「水素吸引」の重要性を再認識したところです。

 今回は特に、日常生活の質を向上できる ”目から鱗” な情報を ご提供出来たのではないかと自負しています。