
今回は、私の趣味の一つである渓流での「テンカラ釣り(日本式毛ばり釣り)」について、運動の観点から掘り下げてみたいと思います。
というのも、長時間テンカラ釣りをすると、歩数は大したことがないのに泥のように疲れることをたびたび経験してきたからです。趣味の登山では、同じ時間歩いても全く平気にもかかわらず、です。この疲労感の違いはどこから来るのか、調べてまとめることにしました。
同じ毛ばり釣りでもフライフィッシング(西洋式毛ばり釣り)に比べて、テンカラをする釣り人の割合は非常に少ないと思われます。私も長らく渓流に通っていますが、テンカラ釣り師に出会った記憶はほとんどありません。多くの方には馴染みのない内容かもしれませんが、備忘録的な意味合いも込めて記しておきます。
テンカラとは?
「テンカラ」は先述したように日本古来の毛ばり釣りです。流行の西洋式フライフィッシングとは異なり、リールを用いない非常にシンプルな道具だてで釣りをします。後者が「貴族の趣味」から生まれたのに対し、前者は職漁師などの「生活の必要性」から生まれ、無駄がそぎ落とされた結果 生まれました。
今、「ミニマリスト」や「UL(ウルトラライト)トレッキング」といったシンプルさが非常にもてはやされています。その流れを考えれば、テンカラにもっと注目が集まってもよい気がしますが、まだそうはなっていません。
私がテンカラを始めたのは35年前。そのシンプルさに惹かれ、本を参考にして取り組みました。30年以上前、友人と北アルプス(白馬岳・清水岳)に登ったあと、祖母谷温泉キャンプ場でテント泊をした時のことです。夕刻に目の前を流れる黒部川で、ズシリと重い岩魚2匹を釣り上げた感動を昨日のように覚えています。その時、道具として持って行ったのは「60gの釣竿」と「糸・毛ばり(20 g)」だけでした。テンカラがいかにミニマムな釣りの典型か、お分かりいただけるでしょう。

釣りのメンタル面への効果
テンカラに限らず、釣りには健康効果(特にメンタル面)が学術的にも明らかとなっています。
① ソロ活動の恩恵:「自らの意志で選んだ孤独」は、他者への気遣いといった社会的役割から解放され、リラクゼーションや自己との対話をもたらす(リンク)
② ストレスホルモン低下:自然の中で過ごすことで、1時間あたり約21%のコルチゾールが低下する(リンク)
③ 癒しの効果:水の揺らぎ、光の反射、波音のリズムがストレスを和らげる(リンク)
④ 心の安定と睡眠:朝日で幸せホルモン「セロトニン」が分泌されて心が整い、それが夜にはメラトニンに変換されて良質な睡眠をもたらす(リンク)
「テンカラ釣り」に潜む驚きの運動量
メンタル面だけでなく、当然ながら「運動」としての効果もあります。今回一番お話ししたいのは、テンカラ釣りの運動量が思っている以上に大きいのではないかということです。
若い頃は、車で90分かけて夜明けに釣り場へ到着し、昼食も立ち食いで夕方まで集中して釣り続けました。帰りの渋滞を経て帰宅すれば当然疲れますが、「こんなものだろう」と深くは考えていませんでした。
しかし今、テンカラ釣りと登山を1週交替で繰り返していると、帰宅後の疲れ方が明確に違うことに気づいたのです。具体的には、テンカラ釣りの後は帰宅後に昼寝が必要なのに対し、登山ではその必要がありません。
渓流釣りでは「テンカラは足で釣る」と言われるように、同じ個所に留まらず上流へどんどん進んでいきます。とはいえ、3時間半釣り歩いても約6,000歩とかなり少なめです。一方の登山では、同時間で約24,000歩(通常歩行なら約21,000歩)も歩きます。歩数だけでは測れない運動量が、テンカラ釣りには潜んでいるのです。
インナーマッスルと神経系のフル稼働
ウェーダー(胸まである長靴)を履いて川の中や岸を歩く際、魚に気配を悟られないよう「抜き足差し足」で進む動作は、まるで太極拳のようです。また、苔で滑りやすい川中の石の上を歩くのは、靴底にフェルトが貼られているとはいえ、非常にバランスに気を使うゲームのような状態です。
つまり、普段使わないインナーマッスル(腹横筋や内転筋など)が、姿勢を保つためにフル稼働しているのです。これが、大きな筋肉を使う登山とは違う「芯からくる疲れ」の原因と思われます。
さらに、「次の足をどこに置くか」「石のヌメリはどうか」「魚に悟られないか」と、一歩ごとに判断を伴うことが神経系を激しく消耗させます。他のことを考えながらでも歩ける登山との、最も大きな違いがここにあります。
「メッツ」の基準では測れない質的な運動量
以前の投稿「適度な運動(ゆる体操、5秒ひざ裏のばし)」の中で、『身体活動の強度(安静時の何倍か)を「メッツ」、身体活動の量(メッツ × 時間)を「エクササイズ」で表す』と記しました。メッツは「運動中に体がどれだけ酸素を取り込んだか」で計算されるため、心臓がバクバク動く有酸素運動ほど数値が高く出ます。
一方、日常やスポーツの現場で「運動量」と言うとき、そこには2つの意味が含まれています。
・量的な運動量:移動距離、上った高さ、歩数、消費カロリーなど(メッツに反映されやすい)
・質的な運動量:筋肉の緊張度、関節への負担、バランスを保つためのインナーマッスルの稼働、神経のすり減り具合など
ご察しの通り、「登山」は量的な運動量、「テンカラ釣り」は質的な運動量に大きく関わります。したがって、テンカラ釣りは登山よりもメッツの数値は低いにもかかわらず、登山よりも疲れるという現象が起こるのだと考えられます。
まとめ
備忘録としての意味合いを込めて書き始めましたが、最初は自分でもどういった結末になるのか分かりませんでした。しかし、いろいろな情報を集めながら書き進めると、不思議なもので自分でも「ああ、こういうことなんだ」と腑に落ちる結論にたどり着くことが多く(今回もそうなりました)、それがこのブログを続けるモチベーションにもなっています。