以前、本ブログの「酪酸菌(強ミヤリサン)+ 難消化デキストリン」において、腸内フローラを良好に保つために、酪酸菌とその餌となる「難消化デキストリン」を約1年間 家族3人で摂取したところ、腸内細菌叢における酪酸産生菌の割合が3人とも平均値を大きく上回る結果となったことをお伝えしました。
今回は、酪酸菌の餌として 「イヌリン」や「フラクトオリゴ糖」が「難消化デキストリン」と どのように異なるのかを確認すると共に、今流行りの「腸活」を今一度、勉強し直したいと思います。
プロバイオティックス と プレバイオティックス
この話題をするときのキーワードとして「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」があります。「プロバイオティクス」は1989年に「腸内フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に有益に働く生きた微生物」として定義されました。一方、「プレバイオティクス」は1995年に「消化管上部で分解・吸収されず、大腸に共生する有益な細菌の栄養源となり、腸内フローラ構成を良好に保つ食品成分」と定義されました。
要するに、ヨーグルト、納豆、糠漬け 等に含まれる生きた微生物が「プロバイオティクス」で、それら微生物の腸内での餌が「プレバイオティクス」ということです。
微生物は生きて腸に届くことが必要か?
死んだ微生物でもトル様受容体を介して自然免疫を活性化することが知られた今では、「微生物は生きたまま腸に届く必要はない」、また「生きたまま腸に届いても、そこに定着しない」と思われた方も いるでしょう。私もそう考えていた一人ですが、今回 改めて調べてみると 必ずしもそうではないことが分かりました。
一般的に腸内細菌叢(腸内フローラ)は主に3歳までに形成されてしまい、食事から摂取したプロバイオティクスは生きて届いても腸内に数日しか滞在しないので、毎日続けてプロバイオティクスを摂取することが腸活のために必要とされています。
ところが、乳酸菌の一種のガゼリ菌SP株を摂取して90日経過しても 調べた8人のうちの4人においてガゼリ菌が便中に排泄される(ガゼリ菌が腸内に定着する)ことが2001年に報告されていることが分かりました。
しかも、7日間のガゼリ菌 摂取をやめて直ぐに便中のガゼリ菌が消失してしまったのは 8人のうちの1名だけで、他の7人は程度の差こそあれ 2以上週間以上 ガゼリ菌が腸内に定着していたと思われます。
たまたまですが、私はこういったことを知らずに、内臓脂肪を減らせないものかと本製品を3月から毎日朝晩と 摂り続けていました。理由は、投稿「短期間で腹囲が爆増 (80→92 cm)したのはMCTオイルの摂取が原因か?」でお伝えしたような状態が我が身に起きてしまったからです。
酪酸菌とは?
本題から少し話が脱線してしまいましたが、ここからは本題である酪酸菌の話をします。最近でこそ酪酸菌が たびたび健康本 や TVなどに登場しますが、まだまだ知名度は低いと思われます。普段 口にするものとしては「糠漬け」ぐらいにしか酪酸菌は含まれません。酪酸菌は芽胞(胞子のようなに厳しい環境に強い)を形成するので、生きたまま大腸に届きます。ちなみに、「酪酸」を産生するので酪酸菌と呼ばれます。「酪酸」と聞いてもピンとこないかもしれませんが、(よく聞く)「酢酸」と並んで短鎖脂肪酸の一つです。つまり、油脂の構成成分として知られる脂肪酸に分類されますが(下図)、これらの中で、酢酸、酪酸は油脂の構成成分とはなりません(難しいですね)。
最近、「酪酸菌」が注目を浴びる理由は、酪酸に以下の作用があることが分かってきたからです。①制御性T細胞の分化誘導(免疫寛容と炎症抑制)、②大腸の細胞の主なエネルギー源、③アポトーシスの促進(癌化した細胞の自殺誘導)、④腸のバリア機能の修復と強化、⑤腸内環境の改善(悪玉菌の増殖抑制と良好な腸内フローラの形成)。
ちなみに「酪酸」を直接飲むというのは現実的ではないのですが、仮に飲んだとしても大腸に届く前に小腸などで吸収されてしまいます。したがって、大腸で酪酸菌に「酪酸」を産生させるのが上述の効果を得るための唯一の方法です。
それでは「乳酸菌」や「ビフィズス菌」は どうでしょうか? これらの菌は酪酸菌のようには芽胞は作らず一般には胃酸で死滅してしまいますが、プロバイオティクスとして開発された菌は生きたまま腸に到達出来ます。どちらの菌も産生する「乳酸」には、⑤(上述)と同様の作用はありますが、「酪酸」に見られるような直接の作用(①~④)はありません。乳酸菌やビフィズス菌を含むヨーグルトには、内臓脂肪を減少させたり、ピロリ菌を抑制したりする等の数々の効果を謳う製品がありますが、いずれも「乳酸」による直接の作用ではなく、乳酸菌やビフィズス菌が生成する物質やその代謝活動によるものと考えられます。この点が、大腸に直接働きかける「酪酸」を産生する酪酸菌との大きな違いです。
酪酸菌の種類は?
実は酪酸菌も乳酸菌やビフィズス菌と同様に多くの種類があります。しかし酪酸菌を含むサプリメントを選ぶ場合には「どの乳酸菌株やビフィズス菌株を含むヨーグルトを選んだらよいか」を迷うような手間は必要ありません。なぜなら、先述しましたが酪酸が大腸に直接作用するので、どの酪酸菌を選んでも効率に差はあっても効能に差はないからです。
そもそも選択肢は多くないのですが、私が摂取しているのは ドラッグストアでも目にする整腸剤「強ミヤリサン(ミヤリサン製薬)」です。1933年に宮入博士が単離した酪酸菌(宮入菌)を製剤化したもので、1970年に厚生省によって医薬品(ミヤBM錠、ミヤBM細粒)としても承認されていることから安心です。酪酸菌を含む整腸剤としては、「ビオスリー(武田薬品)」もありますが、こちらは含有される3種の菌の内の1種が酪酸菌なので、酪酸菌を多く摂りたい場合には「強ミヤリサン」がお勧めです。
酪酸菌の餌として何がよいのか?
代表的な酪酸菌の餌は「水溶性食物繊維」で、海藻、穀類、野菜などに含まれます。「難消化デキストリン」や「イヌリン」は水溶性植物繊維(難消化性の長鎖の多糖類)の一つです。一方、たまねぎ、ごぼう、アスパラガスなどに含まれる「フラクトオリゴ糖」も酪酸菌の餌となりますが、水溶性食物繊維ではなく難消化性オリゴ糖(難消化性の短鎖のオリゴ糖)に分類されます。なお、イヌリンが分解されてもフラクトオリゴ糖が出来ます。食の欧米化に伴い、これらの摂取量は不足していることから、サプリメントとして摂取することをお勧めします。
酪酸菌の餌として「難消化デキストリン」、「イヌリン」、「フラクトオリゴ糖」等のうち、どれを摂れば一番効果があるのかは報告されていません。私は余り深く考えずに「難消化デキストリン」を選び、先述のとおり 約1年間 家族3人で摂取したところ、腸内細菌叢における酪酸産生菌の割合が3人とも平均値を大きく上回る結果となったことをお伝えしました。
難消化デキストリン 、イヌリン、フラクトオリゴ糖の比較
酪酸菌の種類ごとに最適な餌があるのは恐らく間違いありません。ただ それは明らかにされていません。一方、科学的観点からみると、イヌリンは腸内細菌により発酵される割合(資化率)が100%なのに対して難消化デキストリンは50%です。ゆえに、同量を摂取した場合の効果はイヌリンの方が難消化デキストリンよりも2倍高いといえます。フラクトオリゴ糖が腸内細菌により発酵される割合もイヌリン同様に100%ですが、より迅速に発酵されます。ただし、これは必ずしもメリットとはいえず、イヌリンの方が腸内での発酵が長く続くので腸内のさまざまな部分で効果を発揮するともいえます。
ちなみに、「難消化デキストリン」と「フラクトオリゴ糖」は機能性表示食品だけではなく特定保健用食品としても使用されています。一方、「イヌリン」は機能性表示食品として使用されていますが特定保健用食品としての使用は認められません。紅麹の問題があったので特定保健用食品の方が良いと思われるかもしれませんが、「イヌリン」の販売に力を入れている帝人(株)によると、この分野の世界のスタンダードは「イヌリン」で2000億円規模とされる市場の3分の1をイヌリンが占めているそうです。
ということで、どれを選ぶかは非常に難しいのですが、可能であれば「難消化デキストリン」 を使い切ったら次は「イヌリン」を購入するというように、順番に購入して摂取するのが良いと思います。今回は「酪酸菌の餌」ということに焦点を当てましたが、そもそも腸には多種多様な腸内細菌が存在しているので、腸内フローラを育てる観点からは、多種類の餌を摂る方が理にかなっているといえるでしょう。
以下に比較し易い様に、同じ会社が販売している各製品を載せます。値段は、500 g(100日分)で1000~1400円程度です。原材料や製法、粒子の大きさ、味などがメーカーにより様々異なるので、お気に入りを見つけるつもりで、毎回 違うメーカーを購入するのも良いかもしれません。
まとめ
腸内フローラを良好に保つこと(腸活)が健康に過ごすために重要です。腸活は、先述した効果以外にも 最近では認知症や筋肉に及ぼす影響に関する報告もあるように、新たに様々な効果が分かりつつあります。腸活は低リスク高リターンな身体への投資といえるでしょう。
一方で、胎児が産道を通るときに母親から多くの微生物を受け継ぐことで腸内フローラの大半が形成され、3歳までには完全に腸内フローラが形成されます。したがって、一部例外を除き、食事から摂取したプロバイオティクスは腸内に数日しか滞在しないので、毎日摂取することが必要です。
これを聞くと、プロバイオティクスに本当に効果があるのか不安になってしまいますが、これに関する平易な説明は見つかりませんでした。私なりの解釈で恐縮ですが、腸内フローラを新幹線こだま号に見立てると理解が容易です。座席は出発する東京駅で ほとんど埋まっていて、品川駅、新横浜駅に来る(3歳になる)までに完全に埋まってしまいます。それ以降、途中からの乗客(プロバイオティクス)は座席には座れません(定着は出来ない)が 立ったままであれば乗車が可能です。座席が一杯だからと諦めるのではなく、ひとまず乗車すること(毎日のプロバイオティクス摂取)により 京都へ行くという目的を達成すること(腸活)が出来る、こんなイメージです。
ところで、「乳酸菌」や「ビフィズス菌」は よく知られる善玉菌ですが、善玉菌でありながら話題とはならない「酪酸菌」が日本でも 俄かに脚光を浴びだしたのは、先述したように「酪酸」の機能が明らかとなってきたことに加え、京都府立医科大学の内藤 裕二教授の研究報告によるところが大きいと思われます。
内容は、「百寿者の数が全国平均の3倍の京丹後市の秘密を解くために、京都市と京丹後市に住む65歳以上の各51人の腸内細菌を調べました。すると、京丹後市の方が酪酸菌が10%も多い(京都市 58% : 京丹後市 68%)ことが分かりました。さらに、京丹後市の腸内細菌のトップ4は、すべて酪酸菌でした」というものです。
その理由に関しては、「運動量」と「食生活」が考えられるといいます。京丹後市では 畑仕事をしたり、何でも自分でやるので 必然的に日常的な身体活動も多くなること、また、全粒穀物を主食にしている方も多く、根菜類や海藻類、豆類も日常的によく食べ、酪酸菌の餌となる水溶性食物繊維を多く摂っていることが挙げられています。
こういったことを踏まえると、難消化デキストリン 、イヌリン、フラクトオリゴ糖のようなプレバイオティクスを摂取することで、既に腸内フローラに常在菌として存在する酪酸菌を増やせることは確かでしょう。その時に、プロバイオティクスとして酪酸菌(強ミヤリサン)を摂取することに どれくらいの効果があるかは個人差があると思われますが、試す価値は十分にあると思われます。
長々と記述しましたが、今回 調べる中で気掛かりな報告を見つけたので共有します。「プロバイオティクスが抗生剤投与後の腸内フローラの回復を妨げる」という論文(2018年)です。詳しくは、またの機会に紹介させていただきたいと思います。