20冊近くの「糖質制限」に関する本で分かったメリットとデメリット


 

 「糖質制限」に関しては、本ブログでも何回か取り上げました(以下参照)。

投稿「ケトン体質となるにはココナツオイルでなくMCTオイルが良い理由」
投稿「短期間で腹囲が爆増 (80→92 cm)したのはMCTオイルの摂取が原因か?」
投稿「FreeStyleリブレ2で血糖値をモニターして気が付いたこと」
投稿「持久力向上に効果があるもの:ケトン体質、腸内フローラ、アスタキサンチン、β-アラニン、水素吸引」

 
  これらの投稿を書くときにも「糖質制限」を肯定する いろいろな本を読みましたが、今回は既に読んだことがある著者 及びこれまで読んでいなかった著者の最新作(計13冊)を読み、また「糖質制限」を否定する本(4冊)も読んで、さらに自分の経験を踏まえたうえで「糖質制限」に関してお伝えできればと思います。

日本における「糖質制限」の歴史

 「糖質制限」は、日本では 1999年に高雄病院(京都)で最初に開始され、糖尿病に効果があるということで 2005年江部 康二 医師(高雄病院)により広く紹介されました。



 その後、「糖質制限食」の定義付けが まちまちであるために「カロリー制限食」と混同され 賛否両論入り乱れる中で、2012年に当時 北里研究所糖尿病センター長で日本糖尿病学会の指導医でもあった 山田 悟 医師が 「糖質制限食」の有効性を科学的に証明し、実践の指針を示した著作(以下)を発表しました。



日本糖尿病学会は「糖質制限」を認めたくない

 こうした経緯から、2015年を境に「糖質制限」の是非に決着がつき 何も問題がなくなったかに思われますが、話はそう簡単ではありません。日本糖尿病学会は2019年に発表の「糖尿病診療ガイドライン2019」までは「糖質制限」を認めておらず、「糖質制限」をようやく認めたのは2024年発表の「糖尿病診療ガイドライン2024においてでした。しかも、「糖質制限」は「弱い推奨」に留まりました。一方で 「糖質制限」を肯定するすべての医者が否定する「カロリー制限」は「強い推奨」としており、「糖質制限」を肯定する医者からすると何とも歯がゆい内容といえます。


  

「糖質制限」に関する本から分かること

 なぜ このように日本糖尿病学会が「糖質制限」を認めないのか に関しては非常に興味があるところですが、そうしたことも念頭に置きながら、改めて「糖質制限」に関わる2015年以降医師の著作(複数ある場合は最新作)を 年代順に読んでみました。興味深いことに、この中に日本糖尿病学会に属する糖尿病医が2名山田 悟 医師牧田 善二 医師)います。「糖尿病診療ガイドライン」とは異なる糖尿病治療法を推奨することは非常に勇気が要ることであり、特に注目すべき著者と考えて良いでしょう。また、先に掲げた本の著者の多くが2015年以降にアップデートした内容の本を出版しており、日本における「糖質制限の第2ステージ」といえるでしょう。ちなみに、この第2ステージでは「糖質制限」は糖尿病のためというよりも、より広い意味で健康に長生きするためへと目的は変わりました


*注)2023年に出版の「糖質制限はやらなくていい(萩原 圭祐 医師)」は一見すると否定本にみえますが、「健康な人や 体づくりに糖質が必要な若い年代では、糖質制限をする必要はない」という内容であり、著者自身が がん患者を対象にケトン食を導入している医師です。

●人類誕生(700万年前)から定住して穀物を作るまで(1万年前)の長い間、糖質は得難いものであり、身体は糖質過剰に適応していない
●その証拠に、飢餓に際して血糖値を上げるホルモンは複数(グルカゴン、コルチゾール、アドレナリン、成長ホルモン、甲状腺ホルモンなど)ある一方で、血糖値を下げるホルモンはインスリンだけである
血糖値上昇の要因は糖質だけであり、タンパク質、脂肪の摂取では上昇しない
●血糖値が上昇すると膵臓からインスリンが分泌され、細胞に対して血中のブドウ糖を吸収するよう指示しエネルギーとして利用される。なお、余ったブドウ糖は肝臓や筋肉にグリコーゲンとして貯蔵(~300 g程度)される。さらに余った分は脂肪となって蓄積(太る)される
●糖質過剰は食後高血糖(>140 mg/dL)を引き起こして糖尿病に繋がるだけでなく、血管を傷つけることで糖尿病の三大合併症として知られる腎症、網膜症、神経障害や動脈硬化による脳梗塞、心筋梗塞を引き起こす。さらに血流悪化、活性酸素、炎症を引き起こす。また、膵臓の疲弊糖質疲労(昼食後の眠気、朝起きたときの倦怠感)、老化(終末糖化産物[AGE]が原因)も引き起こす
●糖質過剰による血糖値スパイクにおいて、血糖値が低下すると糖質が欲しくなり、血糖値が上がると脳が快感を覚え、自覚のないままに その快感を繰り返し求める状態「糖質中毒」に陥る


 以上の項目に触れている本もあれば 触れていない本もありますが、上述の著者に これらの項目に異議を唱える者はいないと思われます。一方で、推奨される「糖質制限食(1日の糖質量)」に関しては 著者によって千差万別であり、何が正しいのかが非常に分かりにくいのが実情です。

推奨される「糖質制限食(1日の糖質量)

 上述の何冊かのタイトルに「ケトン」という用語が使われています。これは、2015年頃白澤 卓二 医師が「ココナツオイルブーム」を引き起こし、ケトン体質になることで「太らない、疲れない、老けない」という夢のような健康状態が実現可能と謳い、「ケトン」という用語が身近になったことによると思われます。

 しかし、ケトン体が作られるために必要な「糖質制限食(1日の糖質量)」に対する共通認識はないようです。また、ケトン体が作られるほどの「糖質制限」は継続が困難でリバウンドし易いことから、ケトン体が作られない「緩い糖質制限」を推奨する医師もいます。以下に2015年以降の「糖質制限」に関わる本の具体的な糖質制限食(1日の推奨糖質量)をまとめました。

各医師が推奨する糖質制限食(1日の推奨糖質量)のまとめ



 ここでは、「糖質制限食」を目的別に幾つか提案されているお二方(江部 康二 医師、古川 健司 医師)の「糖質制限食の分類」をみてみたいと思います。これにより「1日の糖質量」と「ケトン体発生の有無」、「目的(何に効くか)」の関係性がよく分かると考えます。

 表①は、2005年に日本で最初に「糖質制限」を広めた糖尿病、アトピー・アレルギー治療を専門とする江部 康二 医師による「糖質制限食の分類」です。このうちの「①スーパー糖質制限食」をご自身で実施するとともに 推奨されています。具体的には、3食とも主食を摂らず その際の1日の糖質量は30~60 g/日です。ただし、患者4000人の食事指導の経験から「目的」や「継続の難易度」を鑑みて①~③の糖質制限食を適宜選択することを提案しています。ちなみに糖質量は「②スタンダード糖質制限食」では80~100 g/日、「③プチ糖質制限食」では100~140 g/日です。

表①(江部康二 医師による「糖質制限食」の分類)


 表②は、「がんに対するケトン食療法」を提唱する古川 健司 医師による「糖質制限食の分類」です。ケトン体が作られるのは糖質 90 g以下(+MCTオイル40 g)/日からで、ある程度ケトン体の発生するためには糖質60 g以下(+MCTオイル80 g)/日としています。
 

表②


 こうしてみると、1日の糖質量を60 g以下とすることが効果的な「糖質制限食」の一つの目安となりそうですが、MCTオイルを併せて摂るか否かに両者の違いがあります。古川 健司 医師は がん再発予防・治療の観点から脂肪比率が極端に高い「ケトン食療法(MCTオイルも併せて摂る)」を推奨されている一方で、江部 康二 医師は「ケトン体を効率よくエネルギー源にすることが出来る体質になるだけなら 1日の糖質量を60 g以下とするだけでよく、MCTオイルは必要ない」という考えです。

 「糖質制限」を勧める医者の多くがMCTオイルを併せて摂ることを推奨し、本ブログでも 投稿「ケトン体質となるにはココナツオイルでなくMCTオイルが良い理由」で既にお伝えしていますが、今回 調べる中で江部 康二 医師のように「MCTオイルは必要ない」とする医者もいるのだと初めて知りました。何しろ私は、MCTオイルを併せて摂る「糖質制限」をするなかで腹囲が10 cm以上増えてしまった経験があるので(投稿「短期間で腹囲が爆増 (80→92 cm)したのはMCTオイルの摂取が原因か?」)、今はMCTオイルを摂りたくないのです。

 これらを踏まえて上記の表「各医師が推奨する糖質制限食(1日の推奨糖質量)のまとめ」を改めて眺めると、バラバラに見えていた各医師の提案する「糖質制限食」が、急に腑に落ちるのではないでしょうか。

 この中で異質なのは糖質量70~130 g/日を提案する山田 悟 医師です。ケトン体を出すための「厳しい糖質制限」を続けるのは困難なので、がん治療などを目指すのでなければ「ロカボ(緩い糖質制限):糖質を控え(70~130 g/日)、タンパク質、脂質をお腹一杯食べ、食べる順番を意識(炭水化物を最後に)」で十分だという提案をしています。

 ちなみに、萩原 圭祐 医師も 「がん に対するケトン食療法」として糖質量を10〜30g/日(脂質を120〜140 g/日摂取)を提唱する一方で、「プチケトン食」として糖質量を50〜100 g/日(脂質をしっかり摂取)を提案しています。この内容を「糖質制限はやらなくていい」という誤解されやすいタイトルの本として出版したのは前述の通りです。

「糖質制限」の具体的な進め方

 ところで、「1日の糖質量60 g以下」の実施は意外と大変で、副食や調味料由来の糖質(50~60 g)があるので 3食とも主食を摂らないで ようやく達成できるレベルです。初めて行う「糖質制限」としては かなり難易度が高いので、山田 悟 医師萩原 圭祐 医師が提案する糖質量の上限(100~130 g/日)から始めるのがドロップアウトしない秘訣だと思われます。実は牧田 善二 医師も120 g/日から始めて60 g/日を目指すことを勧めています。

 なお、「緩い糖質制限」を実施する場合でも、主食を減らすことで生じる水溶性食物繊維の不足を補うことが非常に大切です(投稿「腸活には難消化デキストリン 、イヌリン、フラクトオリゴ糖のどれが良いか?」を参照)

 糖質量の目安としては、「おにぎり1個が40 g、八つ切り食パン1枚が20 g」と覚えると計算が容易です。例えば、朝食にパン1枚(糖質20 g)、昼食におにぎり1個(糖質40 g)、副食や調味料由来(糖質50~60 g)で計120 gです。「こんなに主食を食べても良いのか」と意外に思われるかもしれません。



 私の場合、糖質中毒のために一食でも主食を食べないことが非常に苦痛でしたが、1年たった今では、主食は 朝食に食パン半分(10 g)、昼食は目分量でおにぎり1個程度食べ(40 g程度)、夕食は「主食なし」で「1日の糖質量100 g程度(副食や調味料由来の糖質50 g)」を続けています。江部 康二 医師の分類であれば「②スタンダード糖質制限食(80~100 g/日)」と「③プチ糖質制限食(100~140 g/日)」の境、古川 健司 医師の分類であれば「50%糖質制限、ケトン体はでません!(80~130 g/日)」に相当します。ただし、主食以外に野菜、肉、魚、卵、大豆製品、チーズ、ナッツ、きのこ、海藻、水溶性繊維のサプリ などは 毎日 欠かさずに摂ることを心掛けています。

 なぜ私が「1日の糖質量60 g以下」の糖質制限ではなく、 「緩い糖質制限(山田 悟 医師が提唱する “ロカボ” とも同一)」を続けるのかに関してですが、目的が「がん再発予防」や「がん治療」ではなく、「メタボリック予防」、「がん予防」、及び「疲れにくいケトン体質になること」だからです。また、健康に長生きすることに対する「長期に渡る厳しい糖質制限」の影響が定かでないのも その理由の一つです。 
 

「糖質制限」の注意点

 投稿「30冊以上の「断食」に関する本を読んで分かったこと」を書くときに感じたこととして、「断食」と言っても 一言では語れないほどにバラエティが多く、どれが正解なのか非常に分かりにくいということでした。そうなってしまう最大の要因は、断食する目的の違い、個人差(これまでの食生活、性別、年齢、体重、体質、体調等)であることをお伝えしました。

 今回調べる中で、「糖質制限」も目的、個人差により実施することは異なり、「断食」と非常に似ている状況だと感じました。したがって、一人の成功体験が自分に当てはまることは期待出来ないと考えて良いでしょう。

 また、多くの本に書かれていることとして、ダイエットを目的に「糖質制限」をすると体重が目に見えて減少することもあり、やりすぎてしまう可能性があります。総摂取カロリーを落とさないように脂質、タンパク質を摂ることが非常に大切ですが、自己流の「糖質制限」では この計算をするのが面倒で(特に高脂質を目指す場合には)、総摂取カロリー不足に陥りがちです。その点、山田 悟 医師が提唱するロカボ(緩い糖質制限)の「タンパク質、脂質をお腹一杯食べる」は非常に分かり易い方法です。

 また、古川 健司 医師が「厳しい糖質制限を継続している人が たまに通常量の糖質を摂取すると、血糖値スパイクに見舞われるリスクが高くなる可能性(耐糖能の低下)」を指摘しています。具体的には、「厳しい糖質制限」により炭水化物を使わない状況が続くとインスリンに対する感受性が低下し、いざ糖質を摂取するとインスリンが効かずに血糖値が急上昇する可能性が高まります。これを防ぐために、週に一度のカーボローディング、つまり意図的な炭水化物の摂取(80 gの炭水化物)をすることを勧めています。
 
 耐糖能の低下は厳しい糖質制限をしたときに限られたリスクではありますが、古川 健司 医師以外の著作では 触れられていない(隠している?)ことが釈然としません。「糖質制限」はやりすぎてしまう可能性がある以上、事前に知っておきたい情報です。

糖質制限と断食

 今回読んだ「糖質制限」を肯定する本の中で、「糖質制限」と「断食」の関係性に関して記載されている本は、「糖質疲労(山田 悟、2024年)」のみと思われます。ちなみに、山田 悟 医師は、「意図的に長時間におよぶ空腹時間を作るのならば、血糖値スパイクを抑えるために 次の食事の糖質を厳しく控える必要がある」とし、断食後によく取り入れられる「糖質の多いジュースの摂取」を特に良くないとしています。

 一方、投稿「30冊以上の「断食」に関する本を読んで分かったこと」で紹介し「「糖質制限」は危険!(2015年)」を著した石原 結實 医師は、「糖」は人間にとって必要であり、あくまでも「糖の過剰摂取に問題がある」という立場から「糖質制限」を否定しています。彼が主催する伊豆高原にある施設では、朝・昼・夕に人参リンゴジュースを各3杯(9杯/日)飲み約1週間を過ごす、自ら「糖質制限」とは真逆と謳う「高糖質な断食」を実施しますが、2015年にこの本を執筆の時点で「この30年間で約3万人が訪れて、1度来るとリピーターになる方が殆ど」とのことです。また、その中には首相3名を含む大臣経験者20余名、国会議員約50名、医師100名以上、弁護士30名以上、俳優、スポーツ選手 等々も含まれていると記されています。

 石原 結實 医師の この3万人の実績をもつ「高糖質な断食」には やはり説得力があり、「糖質制限」も「断食」も 実施する方法と それが個人に合えば体調がよくなるということで、優劣は付け難いと感じます。

 私見ですが、「糖質制限」と「断食」の いいこと取りが出来ないかと考えた場合に「プチ断食(16時間断食:朝食抜き)」と「ロカボ(緩い糖質制限)」のような 緩い同士の組み合わせでさえ 十分なカロリー摂取が困難な点から両立は難しいと思われますが、より緩い断食である(オートファジーが働く)12時間~14時間の「間欠的断食(朝食あり)」と「ロカボ(緩い糖質制限)」の組み合わせであれば両立が可能かもしれません。しかし、それはあくまで定年退職した私にとってであり、在職中であれば夕食から朝食まで12時間~14時間も開けるのは難しかったので、まさに個人で合う合わないがあるということです。

まとめ

 10年ほど前に「糖質制限」に関する本が本屋にたくさん平積みされていた記憶がありますが、「糖尿病治療の一手段」ぐらいと思い、自分事とは考えられず 手に取らずにいました。最近になって、身体のパフォーマンスを上げる観点から「糖質制限」が非常に気になり、「科学的に理にかなっている点」や「多くの知見が蓄積されている点」から 私自身 2023年10月から取り組んでいましたが、MCTオイルが原因なのか腹囲が爆増してしまったことは先述した通りです。これに懲りていろいろと調べましたが、具体的な「糖質制限」の実施方法に関しては本によって まちまちであり 自分自身が非常に困惑したのが今回の執筆のきっかけです。

 ところで、「糖質制限をずっと続けても大丈夫だろうか?」という疑問は多くの方が持つことでしょう。なにしろ、現在のセンチュリアン(百寿者)に「糖質制限」を実行している方は恐らくいないのですから。一方で、否定派である幕内 秀夫氏の「2020年ごろになれば、おそらく糖質制限食関連の本は9割方絶版になっている」という予想は大きく外れており、「糖質制限」は今まで流行った食事療法とは一線を画すものであることも事実だと思われます。

 本文中にも書きましたが、「糖質制限」は目的や個人差(これまでの食生活、性別、年齢、体重、体質、体調等)により実施すべきことが異なる点で、「断食」と非常に似ていると思います。そして、どんどんとはまり込んで「厳しさ」を追求するあまり、体を壊してしまう可能性がある点も似ています。

 したがって、がん や糖尿病の治療のために専門家の判断のもとで「糖質制限」を行う場合には 様々なフォローがあるので問題はないと思いますが、自己流で「糖質制限」を行う場合には、身体の声を聴きながら、注意深く取り組むことが大切です。

 糖尿病などの疾患に対して「時限的な糖質制限」に効果があることは、今では否定する医者は殆どいない状況にありますが、「長期に渡る糖質制限」の是非に関しては賛否が分かれ、それに対する答えが得られるのはまだまだ先(例えば、「糖質制限」をしている今の70歳が100歳を迎えるまでの30年先)と思われます。いったい どのように決着するのでしょうか。非常に興味があります。

 ではなぜ、このように不確実ともいえる「糖質制限」を私が実施しているのかというと、「ロカボ(緩い糖質制限)」であれば 安全面での不安は殆どないこと、また「現在 得られている知見」と「ロカボを実施して感じる身体の状態」から、健康に長生きするために今の自分には有効であると感じるからです。