
マイクロプラスチックの話題が急に増えたわけ
昨年末からネットニュースで「マイクロプラスチック」に関するニュースが頻繁に目につくようになり、気になっていました。調べてみると、「ティーバッグから多量のマイクロプラスチックが放出」や「脳にはスプーン1本分のナノプラスチックが存在」という話題が Newsweek、Forbes、CNN、フィガロなどの有名メディアに掲載されていることが分かりました。ちなみに マイクロプラスチックは1 nm~5 mmのプラスチック片を指し、ナノプラスチックはマイクロプラスチックに含まれます。
前者の話題は2024年11月に発表された論文由来で、各種紅茶ティーバッグの中身を空にして洗浄し、それぞれを熱湯に入れてかき混ぜてから残った水溶液に含まれるプラスチック片の量を一連の最先端技術を使用して測定した結果、放出量の多いポリプロピレン製ティーバッグでは約12億個/mLものマイクロプラスチックが放出された(ナイロン製では818万個/mL)という内容です。ちなみに この論文では、マイクロプラスチックのヒト腸細胞への取り込みも測定しています。
後者の話題は2025年2月に発表された論文由来で、法医解剖を受けた人々から採取した脳、腎臓、肝臓の組織を調べたところ、1~5 μmの比較的大きな粒子(マイクロプラスチック)が肝臓と腎臓に入り込む一方で、脳は100~200 nm程度の極小の粒子(ナノプラスチック)を取り込んでおり、その量は7 g(スプーン1杯相当)で、脳内のマイクロプラスチック濃度は肝臓や腎臓の7〜30倍にも達していました。さらに、認知症と診断された人々の脳組織サンプルからは、認知症でない人々と比べて最大10倍も多くのマイクロプラスチックが検出されました。
マイクロプラスチックに関するこれまでの知見
実は「ティーバッグから多量のマイクロプラスチックが放出」という内容の論文は2019年にも発表されています。当時は「マイクロプラスチック」という言葉自体がまだ一般的ではなく、環境問題としての認識も限定的だったために余り話題とはなりませんでした。
その後、マイクロプラスチックが胎盤(2021年論文)、肺(2022年論文)、血液(2022年論文)、肝臓(2022年論文)、精巣(2024年論文)、心臓(2024年論文)などからも検出されたという論文が相次ぎました。ちなみに、これまでマイクロプラスチックは肺に1番蓄積されるとされていました(2024年論文)が、先述のように「脳」にも非常に蓄積されやすいことが分かって来ました。
一方、これらと併行して、紙コップ(高密度ポリエチレンフィルムで内側がコーティング)(2021年論文)、テフロン加工のフライパンの傷(2022年論文)、プラスチックのまな板(2023年論文)、電子レンジで加熱できる食品や弁当(2023年論文)、ペットボトル飲料(2024年論文)、ガム(2025年論文)などからマイクロプラスチックの経口摂取が生じることが報告されました。
実は「マイクロプラスチックの確定的な実害」が明らかになっているわけではありません。ただし、懸念されるリスクはいくつか浮かび上がってきています。その一つは、マイクロプラスチック自体の物理的刺激に加え、プラスチックに含まれる添加剤(例:BPA、フタル酸エステル)や、環境中で吸着した有害化学物質が体内に取り込まれることで、内分泌攪乱作用や慢性的な炎症を引き起こす可能性が挙げられます(論文)。
最も注意すべきこと
アメリカ版ウィメンズヘルス(2025年)の「マイクロプラスチックから自分を守るために見直すべき生活習慣とは?」という記事では、以下の点に留意することを勧めています。
・ペットボトルの水ではなく、水道水に切り替える
・アルコール習慣を見直す(マイクロプラスチックを解毒する能力の低下、腸内細菌叢を乱し吸収を高める)
・プラスチック容器に入れたまま食べ物を加熱しない(ティーバッグも含む)
・缶詰食品を制限する(多くの缶には内部にプラスチックコーティングが施されている)
・加工度の高い食品の摂取量を減らす(チキンナゲットには鶏胸肉の30倍含まれている)
・プラスチック製の調理器具の使用頻度を減らす
・掃除機をかける回数を増やす
これを読んで注意すべきことが分かったとしても それを実行するモチベーションは高まりません。そこで、先述した論文をもとに 1食(回、杯)当たりのマイクロプラスチック摂取量の試算を行ってみました。というのも、論文のデータでは「 mL当たり」、「cm2当たり」のような粒子数で表示されているので、具体的な量が分かりにくいからです。

私の試算によると、「容器(電子レンジ)」、「ティーバッグ(熱湯)」が飛びぬけて高いことが分かりますが、下記のように棒グラフにすると その違いがより はっきりします。驚いたことに、3番目に高い「テフロンフライパン(傷あり)」ですら「容器(電子レンジ)」、「ティーバッグ(熱湯)」の 20万分の1程度と低く、グラフでは見えないレベルなのです。

これは、どんなに紙コップ、テフロンフライパン、プラスチックまな板、ペットボトル、ガムを使わないように頑張っても、「容器(電子レンジ)」や「ティーバッグ(熱湯)」を1回でも使ってしまうとその努力はおじゃんになってしまうことを意味します。
もうお分かりですね。「容器(電子レンジ)」や「ティーバッグ(熱湯)」を使わないようにすることに注意すれば、マイクロプラスチック摂取量を大幅に減らせるということです。
自分の身は自分で守る
最近、マイクロプラスチックが気になって「ガム」を控えていたのですが、こうして今回のブログをまとめる中で、余り意味のないことだったことを認識しました。紅茶が好きでティーバッグを一日に何回か使っていたのでこの習慣こそ止めねばならず、 茶漉しに中身を開けて使うようになりました。それでも、いまだにサランラップやジプロックのまま冷凍の魚を解凍したりしているので、改めねばならないと反省しています。
ところで、「ジップロック」に対して2025年4月にアメリカで集団訴訟が起こされている(記事)ことをご存じでしょうか。「電子レンジ対応」等の表示が不適切というのが主な内容です。ポリプロピレン製のティーバッグを含めて、こういった内容はシビアなので、特にTVでは取り上げられません。年月が経てば、これらを使わないことが常識となるのでしょうが、過渡期には「自分の身は自分で守る」ことが必要です。
まとめ
今年初めに、健常人でスプーン1杯(7 g)ものマイクロプラスチックが脳内に存在することが発表されました。さらに、認知症患者では最大10倍も存在するということで、脳(~1.4 kg)の約5%がマイクロプラスチックで占められていることを意味します。
マイクロプラスチックが原因で認知症になったのか、認知症ゆえにマイクロプラスチックが溜まったのかは明らかではありませんが、分からないからこそマイクロプラスチックを身体に入れないための工夫が必要です。
私は以前、医薬品の申請業務に携わった経験があり、重要な概念として「Extractables(抽出物)」および「Leachables(浸出物)」がありました。これらは、医薬品の製造・保管・投与に用いられる容器や機器などから薬剤に移行する可能性のある化学物質について、そのリスクを評価するものであり、申請書類に記載する必要がありました。
調べてみると、食品分野にも類似の考え方として「ポジティブリスト制度」があることがわかりました。これは、食品用合成樹脂に使用できる物質を限定し、それ以外の物質の使用を原則として禁止するという制度で、リスク評価と規制の両面を担っています。この制度は、2025年6月1日に施行されたばかりの新制度であり(混乱を避けるため 5年間の経過措置期間が設けられていました)、まさに “出来たてほやほやの制度” と言えます。ただし、これらはあくまで「化学物質」を対象としており、「マイクロプラスチック」は評価の対象ではありません。
制度や規制がない以上、資本主義社会においては「安価」で「便利」な製品が市場に多く出回るのは当然の流れであり、自分の身は自分で守るという意識が必要です。とはいえ、マイクロプラスチックに関しては、前述のとおり「電子レンジ対応容器・フィルムの使用」や「ティーバッグの利用」を避けるといったことに注意するだけで、マイクロプラスチックの摂取量を大幅に抑えることが可能なので是非とも覚えておきたいものです。