口腔ケアと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

 「口腔ケアが新型コロナとなんの関係があるの?」と思われる方も多いかもしれません。口の中の汚れは歯だけでなく、歯茎、舌、及び頬の内側にも付着しており、そこに多くの細菌が繁殖しています。したがって、適切な口腔ケアが出来ないと虫歯や歯周病の発生につながります歯周病の有無が新型コロナ合併症、死亡、ICU入院、及び人工呼吸器の必要性の発生確率と関連していることが2021年に報告されています。

歯周病と新型コロナ

 「成人の8割が歯周病」と信じ込んでいる方も多いと思いますが、厚生労働省HPで確認したところ、歯周病の判定基準の変更があり、2016年の調査では判定基準の一つ「歯周ポケット4 mm以上」の割合は高齢者で増加しますが、それでも6割程度ということです(下図参照)。決して安心できることではありませんが、基本情報として挙げさせて頂きました。

 歯周病と全身疾患の関連が分かって来ています。歯肉に炎症が起きると上皮組織に断裂が生じて歯周ポケットの細菌が体内に侵入して血流に乗ること(菌血症)が敗血症、感染性心内膜炎、動脈硬化、脳卒中、糖尿病、及び認知症の発症や悪化の原因となること、また口腔内の細菌が多いと誤嚥性肺炎になるリスクを上げることも分かって来ました。歯周病が新型コロナの重症化及び死亡に関わる仕組みは解明されていませんが、新型コロナが重症化した人おいて、(口腔内細菌が血中に侵入することも原因となる)敗血症のリスクが高いこと、敗血症ショックはサイトカインストーム(免疫の暴走)状態であること、そして新型コロナ重症化及び死亡の原因がサイトカインストームであることを踏まえると、口腔ケアにより口腔内細菌が血中に侵入するのを抑制することが新型コロナ対策として有効なことを理解しやすいのではないかと思います。
 さらに、口腔内細菌(特に歯周病菌の一つPg菌)が腸まで移動し、腸内細菌叢(腸内フローラ)を乱して体の免疫力を下げてしまう可能性があると言われています。口腔ケアをしっかりと行うことで腸内細菌のバランスが整い、免疫力の向上が期待できます。

口腔内細菌ウイルス感染

 口腔内細菌が出すタンパク分解酵素が、インフルエンザウイルスが体内へ侵入するのを手助けすることが明らかとなっています。そして、介護施設で歯科衛生士による専門的な口腔ケアを受けた高齢者のインフルエンザ発症率が、専門的な口腔ケアを受けてない高齢者の発症率の10分の1になったとの報告(奥田克爾ほか、平成15年度厚生労働省老人保健健康増進等事業, 口腔ケアによる気道感染予防教室の実施方法と有効性の評価に関する研究業務報告書,地域保健研究会,東京 [2004])が知られています。
 一方、新型コロナウイルスでは、インフルエンザウイルス、SARS及びMERSコロナウイルスの場合とは異なるメタロプロテアーゼというタンパク分解酵素が感染の手助けをすることが2022年6月に報告されました。新型コロナ患者でウイルスが多く存在する上咽頭が体内への主な侵入部位の一つであることを考えると、口腔ケアでこのメタロプロテアーゼを減少させることで新型コロナ対策が出来ることが期待出来ます。

新型コロナ対策に有効な口腔ケア

 上述したように、口腔ケアにより口腔内細菌を減らすことには新型コロナ対策の観点からみて2つの利点があります。一つ目は口腔内細菌を減らすことで細菌が産生するタンパク分解酵素が減少し、新型コロナウイルスの侵入を抑えられる点です。二つ目は口腔内細菌が腸まで移動して腸内フローラを乱し、体の免疫力を下げてしまうのを抑えられる点です。この2点を踏まえて、具体的に新型コロナ対策として有効と考えられる口腔ケア以下に挙げます。

歯石の除去

 歯垢が唾液中に含まれるカルシウムやリンと反応して石灰化すると歯石となります。歯周ポケット内部の歯石はセルフケア(ハミガキ、歯間の清掃)だけでは取り除くことができません。歯石の表面は凸凹しているので、その上に歯垢がつきやすく、口腔内細菌の温床となり、歯周病発症及び進行の原因となります。そこで、定期的(理想的には3か月毎)に歯科医院で歯石を除去(保険適用することが非常に大事です。

歯間の清掃

 セルフケアをしても歯石の形成を遅らせることはできても、止めることは出来ないので、定期的な歯石除去が前提でのお話です。デンタルフロスや歯間ブラシは、ハミガキ(ブラッシング)では取り切れない歯間の歯垢をとることが出来ます歯垢は口腔内細菌の塊なので、毎日除去することで口腔内の環境が改善されることは明らかです。さぼらずに毎日使うには簡単に使えることが大事です。私はいくつか試した結果、下記の製品を使い続けています。皆さんも、自分に合ったものを見つけて下さい。

歯磨き粉を利用したハミガキ

 健康オタクの方は、発泡剤(ラウリル硫酸ナトリウム[SDS])の入っていない歯磨き粉を使われているかもしれません。ただし、日本歯科医師会HPにおいてSDSが新型コロナウイルス表面の膜を破壊する作用が報告されています。しかも、SDS単独よりも歯磨き粉中に同濃度のSDSが存在する方が、より効果があるようです。新型コロナ対策の観点からみると、発泡剤入りの(通常の)歯磨き粉を用いてハミガキすることがより望ましいでしょう。

舌苔の除去

 舌の表面に生えている舌苔(ぜったい)は歯垢と同様に細菌の塊で、口腔全体への細菌の供給源となります。健康状態のチェックにも使われることからも分かるように個人差がありますが、口腔内細菌の6割以上が舌に存在する人もいます。したがって、舌苔を除去すれば口腔内細菌を大きく減らすことが可能で、新型コロナ対策に有効と考えられます。舌苔はバイオフィルムという強固な膜のような状態で舌に張り付いているので、ハミガキやうがいで除去することは困難です。そこで、舌ケア専用用品の利用がおすすめです。各種用品がありますが、ブラシタイプが衛生状態を保つのに気を使うのに対して、以下商品はTPE製なので衛生的で、へたらずに長く使えておすすめです。

ロイテリ菌の摂取

 

 ロイテリ菌は1980年代に発見された乳酸菌の一種で、アンデス山中に暮らす女性の母乳から見つかりました。ロイテリ菌は天然の抗生物質ロイテリンを作るので、(カプセル錠ではなく)タブレット錠を舐めれば、口腔内の虫歯菌及び歯周病菌などを殺菌することができます。また胃酸に強く、腸まで確実に届くことが特徴です。ところで、腸内フローラは生後1~2年でほとんど決定し、それ以降に口から摂取する(ロイテリ菌を含む)乳酸菌やビフィズス菌などが永続して定着することはありません。しかし、摂取したこれらの細菌が生きて腸まで届けば、一定期間定着し、腸内フローラの一部として働くことが知られています。先述したように、ロイテリ菌は生きたまま腸まで届きます。したがって、腸内フローラから脱落する分を定期的に補充すれば、ロイテリ菌が常に腸内フローラとして存在し続ける状態を保つことが出来ます。
 スウェーデンのある職場で実施されたランダム化比較試験(エビデンスレベルが高い)の結果が、2005年に報告されています。試験期間(80日間)において、全従業員のうちプラセボ群では26.4%が病欠したのに対してロイテリ群では10.6%でした。また、交替勤務労働者のうち、プラセボ群の33% が病欠したのに対してロイテリ群では病欠がありませんでした。

 購入にあたっては、スウェーデンのバイオガイア社(創立当初からノーベル生理学・医学賞審査本部のカロリンスカ医科大学と共同研究)が特許を持つロイテリ菌(DSM 17938株、ATCC PTA5289株)を含む製品を選ぶのが間違いないでしょう(公式サイト)。一錠100円近くするので、家族全員でとなるとややコストが嵩みます。2ヵ月間は毎日、夜のハミガキ後に1錠を噛まずに舐めますが、その後は週に2~3回の摂取で良いとされています。歯科医院のホームページを見ると、早いと2~3週間で歯周病の改善がみられるようです。私は5年以上も摂取し続けており、歯科医院で定期的に実施する検査での歯周ポケットの深さや出血は以前よりも良くなっています。しかし、歯周ポケット1 mm以下の歯はなく、出血のある歯もまだ多く存在します。とはいえ、私は今後も摂取を続けるつもりです。

 「家族が多いので安価なものを」という場合には、以下のような製品もあります。本製品のロイテリ菌株名は明らかにされていないようですが、国内GMP工場で製造されていることから安心して摂取することが出来ると思います。

L8020乳酸菌の摂取

 L8020乳酸菌は、広島大学大学院医歯薬保険学研究院 二川教授により虫歯歴・歯周病歴のない人の健康な口の中から発見され、80歳で20本以上の歯を保って欲しいという思いから、L8020乳酸菌と名付けられました。L8020乳酸菌には抗菌性があり、歯周病菌(Pg菌を含めた代表的な4種)を有意に減少させるというランダム化比較試験(エビデンスが高い)の結果が2019年に報告されています。L8020乳酸菌を含むヨーグルト、口内洗浄液、歯磨き粉、及びタブレットなど各種製品が販売されています。私は以下のタブレットを常に持ち歩いていて、食後にハミガキ出来ないときに1~2錠舐めることにしています。

ベロ回し

 基本は、この本を参考としています。実施するタイミングや実施の仕方は長続きできるように、私自身は次のように変更しています。実施のタイミングは、夜中に目覚めたときです(若い人は目覚めないかもしれませんが・・・)。口を閉じて舌を思い切り伸ばして歯の外側の歯茎をなぞるように時計回りで5回、次に逆回りに5回の「ベロ回し」をします。終わったら、唾液は飲み込んでしまいます。意味合いとしては、睡眠中に増殖しつつある口腔内細菌を唾液で洗い流すことです。細菌は時間と共にネズミ算式に増えるので、夜中に1回「ベロ回し」を実施することで、何もしないときと比べて朝起きた時の口腔内細菌数を明らかに減少させることが期待出来ます。また唾液には免疫グロブリンA(IgA)が存在しており、過去に感染したことのあるウイルスや細菌だけでなく、類似した構造領域を持つ抗原にも反応する「交差反応性」があることが2022年6月に大塚製薬からプレスリリースされました。したがって、新型コロナウイルス自体を不活化することも期待出来ます。「ベロ回し」後の唾液を飲み込んでしまうことには賛否があるかもしれませんが、夜中なので出来るだけ手間を減らす観点と、飲み込むこと(嚥下)により、うがい同様の効果が期待でき、風邪対策も可能と考えられる点から、飲み込むことで問題はないと思っています。さらに「ベロ回し」は嚥下障害を予防し、誤嚥性肺炎の予防になると考えられます。実際、私は最近まで飲食中にむせる症状に困っていましたが、「ベロ回し」を行うことで明らかに症状が改善されました。

マヌカハニー

 アボリジニの人々が何世紀にもわたって利用して来たマヌカハニーは、個人的には喉の痛みを含めた口腔内環境の改善や風邪予防に非常に効果があると感じていますが、科学論文検索サイトPubMedで「Manuka honey, virus」をキーワードとして検索すると、2022年9月現在でヒットするのはわずか8件です。このうちの2件はインフルエンザウイルスに関する論文ですが、新型コロナウイルスに関するものはありません。一方、抗菌物質メチルグリオキサール(MGO)の含有量で品質が規定されていることからも分かるように、(ウイルスにではなく)細菌に対する抑制効果に関しては多くの論文が報告されています。Pg菌を含めた歯周病菌に対する抗菌作用も2014年に報告されています。したがって、口腔内細菌(歯周病菌を含む)を減らして新型コロナ対策を出来ると思われます。
 マヌカハニーの摂取で難しいのは2点あり、一つ目は品質基準(MGO、UMFなどが様々で(当然、効果の高いものは高額)、どれを選んだらよいかが分かりにくい点です。二つ目はいつ舐めたら良いのかの判断が難しい点です。歯周病対策としては、寝る前に口の中で塗り広げるのが一番効果が高いと思われます。ニュージーランドでは(歯周病対策としてではなく)虫歯対策としてそのような使い方をしているとの情報もあるのですが、いくら虫歯菌(S.mutans)の餌となる砂糖(ショ糖)をほとんど含まないとはいえ、甘いものを口に含んだまま寝るのは、かなり勇気がいります。ちなみに私は2年間ほど寝る前に上述の「ベロ回し」の要領でマヌカハニー(UMF 15+)を歯と歯茎に塗り広げてそのまま寝ていましたが、虫歯となることはありませんでした。今回、改めて論文を調べると、試験管実験(in vitro)において、虫歯菌に対して増殖阻害活性があることが2018年に報告されていますが、臨床実験は実施されてていないようです(実施が非常に困難と推察されます)。虫歯菌を含めた多くの口腔内細菌は、マヌカハニーの甘味(ブドウ糖及び果糖)からも酸を産生し、歯の脱灰を促進(虫歯になり易い状態)することが2017年に報告されています。これらを勘案すると、個々人の口腔内の状態及び歯(エナメル質)の強さによっては、寝る前に口の中に塗り広げることは虫歯になるリスクを高めると言えるでしょう。
 したがって、他の対策①~⑦と比べるとリスク・ベネフィットが劣ると考えますが、「新型コロナ対策としてマヌカハニーはどうなの?」と思われる方もいると考え、敢えて項目⑧として挙げました。

まとめ(コスト計算を含む)

 上述したように、口腔ケアにより口腔内細菌を減らすことには新型コロナ対策の観点からみて2つの利点があります。一つ目は口腔内細菌を減らすことで細菌が産生するタンパク分解酵素が減少し、新型コロナウイルスの侵入を抑えられる点です。二つ目は口腔内細菌が腸まで移動して腸内フローラを乱し、体の免疫力を下げてしまうのを抑えられる点です。具体的な口腔ケアの例を数多く上げましたが、今現在、通常にセルフケア(ハミガキ、歯間の清掃)をしているならば、定期的に歯科医院で歯石を除去するのが一番有効な対策と考えます。また、歯周病が進んでいる場合には、歯科医院に相談して積極的に治癒に取り組むことです。したがって、最低限のコストで最大の効果を得るために新たにかかるコストは年に4回の歯石除去の代金です(約2,000円 x 4回/365日 = 約22円)。

【参考情報】
・特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会HP
・日本大学歯学部 細菌学教室HP
・一般財団法人 日本口腔保協会HP
・ウーマンウェルネス研究会 口内菌の6割は下に存在!でも舌専用のケアをしている人はわずか2割 (2020年9月)
・上西寛司ら 乳酸菌の生理機能とその要因 日本調理科学会誌 Vol.46, p129-133 (2013)