「鼻うがい」とは「上咽頭」を洗うこと

 小林製薬が鼻洗浄製品「鼻うがいハナノア」を発売したのは2006年のことです。私は、花粉症の軽減を目的に発売当初から愛用しています。

 2020年に「鼻うがいが新型コロナ感染予防として有効であろう」という観点から、慢性上咽頭炎に関する何冊もの著作がある医師・堀田修 先生が書かれた以下の書籍が発売されました。

 「上咽頭」と聞いてもピンとかないかもしれませんが、「PCR検査の際に長い綿棒を鼻から入れて検体を採取する部位」といえば容易に想像がつくでしょう。つまり、新型コロナウイルスに感染した場合にウイルスが多く存在する(レセプターが多い)場所のことです。



「鼻うがい」の効能(新型コロナ対策、慢性上咽頭炎の対策)

 「鼻うがいとは上咽頭を洗うこと」と述べましたが、「鼻うがい」が「ウイルスの物理的な剥離」には留まらないことが2018年に報告されました。生理食塩水中の塩化ナトリウムが、ヒトコロナウイルスを含む一連のDNA及びRNAウイルス(2018年当時、新型コロナウイルスは未だ出現していませんでした)の複製に対して用量依存的な阻害をもたらすという内容です。この抗ウイルス効果の一つは、塩化ナトリウムの塩素イオンが細胞に取り込まれ、次亜塩素酸が生成される働きに拠ります。つまり、「鼻うがい」では鼻にツンと来るのを抑えるために生理食塩水を用いますが、生理食塩水には抗ウイルス効果もあるということです。

 ウイルスが「上咽頭」に存在するレセプターに結合してから細胞に取り込まれるまでにかかる時間は、インフルエンザでは分単位と非常に短く、潜伏期間(感染から症状がでるまで)がインフルエンザよりも長い新型コロナであっても、ウイルスが上咽頭に滞留している時間はそんなに長時間とは思われません。したがって、「鼻うがい」の新型コロナ感染予防効果を疑問視する向きがあることも事実です。

 一方、新型コロナウイルスに感染した場合に、鼻うがい等のケアが症状緩和及びウイルス伝搬の抑制(人にうつさない)に有効と考えられるとする総説が2021年に報告されました。この論文にも参照された「鼻うがいが風邪症状を緩和する」という内容の論文が2019年に報告されています。医学的に信頼度が高いとされるランダム化比較試験による研究で、「鼻うがい群」は「鼻うがいをしない群」と比べて病気の期間が22%短縮され、市販薬の使用(必要性)が36%減少、及び家族への感染が35%減少しました。この減少の程度が少ないと感じる方もいるのではと思われますが、未査読ではありますが次のような2021年の論文もあります。新型コロナ陽性判定後に、「鼻うがいを開始しない群」の 10.6% が入院または死亡したのに対し、「鼻うがい群」では1.27% と約8倍も低かったとする内容(ランダム化比較試験にて実施)です。

 さらに、「鼻うがい」には「慢性上咽頭炎」を改善する効果が期待できます。「慢性上咽頭炎」が原因で生じる体の不調は様々で、頭痛、慢性疲労、めまい、不眠、うつ等々があるようです。新型コロナ対策にのみ限らず、体の不調対策のために「鼻うがい」をするというスタンスでよいのではないかと思います。

 

慢性上咽頭炎とは

 「鼻うがい」が花粉症の軽減やウイルス感染の予防になるであろうことは容易に想像がつきます。一方で、「『鼻うがい』が慢性上咽頭炎を治す一手段である」といわれてもピンと来ないかもしれません。「慢性上咽頭炎」という概念は医学の教科書への記載がなく、医師国家試験にも出題されないそうです。しかし実際には、内視鏡検査で明らかに上咽頭の炎症が確認され、それを治療することで頭痛、慢性疲労、めまい、不眠、うつ等々の不調を改善出来ることが分かって来ました

 医師・堀田修 先生によると、これまでに子宮頸がんワクチン接種後の体調不良の患者を約90名診察したところ、一つの例外なく、激しい慢性上咽頭炎がみられたそうです。そして、下述の治療を行うことにより、多くの患者で症状の改善がみられました。しかも興味深いことに、殆どの患者が治療前に鼻の奥の違和感を感じていませんでした。つまり、慢性上咽頭炎であっても、本人にその自覚はありません。なお、ヒラハタクリニック院長・平畑光一先生によると、コロナ後遺症の患者にも上咽頭の炎症が高頻度で起きているということです。

慢性上咽頭炎の治療(EAT、Bスポット療法)

 塩化亜鉛溶液を浸み込ませた綿棒で上咽頭を擦る治療(上咽頭擦過療法: Epipharyngeal Abrasive Therapy[EAT])は、「Bスポット療法」として知られています。本治療法は診療報酬が低いために、殆どの医師にとって魅力に乏しいこともあり、治療を受けられる病院が限られています。とはいえ、北海道から沖縄までの400近い病院でこの治療を受けることが可能です。なお、コロナ後遺症に対する本治療法が有効な可能性が、2022年4月に報告されています。

 一方、効果は「Bスポット療法」には及びませんが、「鼻うがい」で慢性上咽頭炎を改善することが可能です。また、「口テープ」でも効果が期待されるので、これらを実施することも意味があるでしょう。

まとめ(コスト計算を含む)

 「鼻うがい」が花粉症の軽減やウイルス感染の予防になるであろうことは容易に想像がつきますが、現時点では、「鼻うがい」が新型コロナの感染予防に効くことを示した明確な報告はないと思われます。とはいえ、感染する可能性が高い場面に遭遇した後や、いざ感染した後の症状の緩和や家族内感染防止といった観点ではかなり有効と思われます。 

 一方で、「鼻うがい」が「慢性上咽頭炎を治す一手段でもある」といわれてもピンと来ないかもしれません。頭痛、慢性疲労、めまい、不眠、うつ等々の不調が既にみられる場合には、慢性上咽頭炎であるかの診断も含めて医師による診察が不可欠と思われます。一方、特に不調でない場合にも、「鼻うがい」を日常に取り入れることで、慢性上咽頭炎となるのを予防出来ると考えられます。


 「鼻うがいハナノア」に付属の容器と食卓塩(一瓶100円)があれば、1回あたりのコストは限りなく0円です。私の場合は目分量の食卓塩を容器に入れた後(正確には100 mLに0.9 gですが、容器の底にうっすらと塩がある状態にすればOK)に、水道水(冬はお湯)を適量入れて攪拌し、少し上を向いて鼻の奥めがけて食塩水を約半量出し切ります(ハナノアにはケース内にチューブの有り無しの2タイプがあり、私はチューブ無しを使用しています)。洗浄後の液は口から吐き出します。慣れた今では片鼻2秒くらいで終了です。安くて簡単な健康法なので是非お試しを。

【参考資料】

・慢性上咽頭炎 認定NPO法人 日本病巣疾患研究会HP
・堀田修 慢性上咽頭炎を治しなさい あさ出版