最近よく聞くPFAS、PFOS、PFOAって何?

 

 最近よく耳にするPFAS、PFOS、PFOAという用語ですが、厳密な意味が分からずとも、それら健康に害をもたらす物質が 沖縄や東京都の米軍基地周辺の地下水で高い値で検出されることは ご存じの方が多いと思います。そして、その原因として主に考えられるのが「泡消火剤」ということも。

他人事ではないPFAS汚染

 「米軍基地周辺に住んでいないから」とか「井戸水を飲んでいないから」という理由で 自分とは関係がない と思われる方も多いと思いますが、最近になってネットニュースで「大阪、兵庫で血液検査の結果、PFASが3割の住民で米国指針上回る」、「アサリ汁一杯で一日摂取許容量の1週間分を超えるほどの量になる」、「神戸で製造されたペットボトルのミネラルウォーターからPFASが高濃度で検出されていた」という記事をみるにつけ、他人事では済ませられない状況になっていると思わされます。

 また、クローズアップ現代(2024年6月12日配信)は、渓流釣りで釣った魚を頻繁に食べている私にとっては衝撃的な内容でした。それは、汚染源が米軍基地だけでなく、川の上流域の産廃処分場に置かれた(工場で)PFASを除去するために使われた活性炭の袋が経年劣化で脆くなり、雨水でPFASが漏出したことが原因ではないかというものでした。

PFAS、PFOS、PFOAとは

 PFAS(パーフルオロアルキル化合物)は「有機フッ素化合物」のことで、現在 4700種類以上が存在している。環境中できわめて分解され難いので 生物の体内で蓄積しやすく、米国人や日本人の調査でも ほぼ100%の人たちの体内を汚染していることが知られています。

 PFASは熱や紫外線などに強く水と油をはじく特徴があるために、多くの工業製品、消費者製品、泡消火剤などに使われてきました。PFASの中で最も多く使用されてきたPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(パーフルオロオクタン酸)の2物質については、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」で製造・使用、そして輸出入が禁止・制限され、他の物質への代替が進んでいます。

 防水スプレー や フライパンのフッ素樹脂にPFASが使われることは知られますが、ハンバーガーなどの油をはじく容器包装、デンタルフロス、ファンデーションなどの化粧品にもPFASは含まれており、米国の疫学調査では、ファストフード食品、デンタルフロスなどの利用頻度が高い人に血液中のPFAS濃度の上昇が見られます。したがって、直接的にはPFASを含む製品から、間接的には環境中のPFASに汚染された水や食品を介してPFASを体内に取り込んでいます。

PFASによる健康被害

 2022年に米国科学・工学・医学アカデミーは5000報以上の文献を分析してガイダンスとして纏めPFASと関連性を示す十分な証拠のある健康影響として、①抗体反応の低下(ジフテリアワクチンと破傷風ワクチン接種後の抗体価低下、②脂質異常症、③幼児 及び 胎児の成長低下、④腎臓がんリスクの増加 を挙げています。その他にも、甲状腺ホルモン、性ホルモンの攪乱作用、 免疫力の低下、 肝臓への毒性、 潰瘍性大腸炎などへの影響も懸念されるとしています。

 一方、内閣府 食品安全委員会は2969報の文献から257報を選定し評価を行い、「PFASの健康影響に関する知見、ヒトのPFAS暴露量・摂取量に関する知見ともに不足しており、それらの確からしさに課題」と結論付けており、米国との見解に大きな違いがあります。

何に注意すればよいのか

 PFOS は2010年、PFOA は2021年に製造・輸入等が原則禁止されています。したがって、PFOS、PFOAを使用した製品が 日本で新たに流通することはありません。また 環境省の調査によると、同一の測定点において水質(河川等)、底質、大気中の濃度が全体的な傾向として年々減少傾向にあります。

 日本では2019年に PFOS、PFOAの耐容一日摂取量はそれぞれ20 ng/kg/日、水道水質の管理目標値はPFOS、PFOA合わせて50 ng/L以内(暫定)と設定されました。欧米に較べて基準は緩いものの、今後 水道水から大量に被曝することはないと思われます。一方、井戸水に関しては注意が必要でしょう。

 また、先述しましたが 中国産アサリには注意が必要です。米国の研究で、中国産アサリから高濃度のPFOAが検出されています。アサリ汁1杯で1日摂取許容量の7倍を超えるほどの量になるということです。熊本産アサリの産地偽装が問題になったことを踏まえると、国産(本来、国内で1年半以上の育成が必要)といえど完全には安心出来ません。

 そして、ミネラルウォーターを大量に飲んでいる場合も注意が必要と考えます。先述したように、ミネラルウォーターからPFASが検出されることもあります。製造業者にとって、会社の運命にも関わるPFASの自主検査は積極的には行わない可能性が高いので、このようなこともまだ起こり得ます。これは、都市に近い水源を使う日本酒でも同様ですが、通常 ミネラルウォーターに比べて飲む量が圧倒的に少ないので健康被害が生じる可能性は少ないでしょう。

【まとめ】

 PFASという用語は最近になって頻繁に耳にするようになりましたが、東京都水道局は2005年から水道水の取水源としていた井戸を対象にPFAS濃度の調査を開始しています。しかし、「今後減少していく傾向がある」として 2014年に調査を中断しました。その数年後に沖縄の米軍基地周辺に続き 横田基地に近い東京・多摩地域でも水道水の汚染が発覚したのはご存じの通りです。

 小さい頃に読んだ白土三平の漫画に、ある土地で奇病が発生し 謎に包まれていたが、その原因が「飲み水」にあったという内容の作品(黒い秘密兵器)がありました。それは、幼心に教訓として深く刻み込まれました。したがって、20年以上前から 妻には「お米 や ミネラルウォーターなど毎日飲食するものは、毎回同じものではなく異なる銘柄を購入するよう」に伝えていました。

 しかし「日本の水道水は安全」と誰もが思っているので、今回の水道水汚染のケースは 避けることが非常に難しかったと思われます。いろいろなことを考えさせられる事件です。

 

【参考資料】

PFASガイドブック(社会医療法人社団・健生会PFAS専門委員会、2023年)
有機フッ素化合物に関する東京都の取組(東京都、2024年)
有機フッ素化合物(PFAS)の食品健康影響評価について(内閣府 食品安全委員会、2024年)