ホメオパシー、レメディとは

 日本では「ホメオパシー」に対する認知度が約0.5%と言われているので、恐らく多くの方がご存じないかもしれません。「ホメオパシー」(類似療法)とは、その病気や症状を起こし得るもの(鉱物、植物、動物)により、その病気や症状を治す治療法です。例えば、大量の鼻水や涙が出る花粉症や風邪には赤タマネギを原料としたAllium cepaを用います。「レメディ」はホメオパシー療法の際に用いられる薬です。レメディは直径2~3 mmの砂糖玉で、原料を「希釈」と「振とう」を繰り返した溶液を浸み込ませたものです。

ホメオパシーの歴史

 紀元前5世紀に古代ギリシアの医師で「医学の父」と呼ばれるヒポクラテスは、「体には自ら治癒する能力が備わっている」、「似たものが似たものを癒す」とホメオパシーに通じる概念を書き記しています。16世紀にはパラケルススは実験と科学的研究をし、その概念を発展させました。そして、1796年にドイツの医者 ハーナマンにより体系づけられ、世に広まりました。ハーナマンがこの研究を始めたきっかけは、China(キナの樹皮)のマラリアに対する治療効果について書かれた記事を翻訳していたときでした。その記事には、「治療効果は、Chinaの『苦み』の作用」と書かれていましたが、「苦い物質が多数ある中で、なぜChinaなのか?」について疑問を抱いた彼は、自らChinaの摂取を試みました。すると、マラリアそっくりの症状が現れ、何回繰り返しても同じ結果でした。ちなみに、Chinaは今でもマラリアに対するレメディです。この発見を契機に、ハーナマンは100種以上のレメディのプルービング(証明)を行いました。その後、後継者により様々なレメディのプルービングがなされ、今ではレメディの数は3000種以上にのぼります。

レメディの作り方

 ハーナマンが治療を始めた当初、治療の過程で副作用がみられたことから、原料を希釈して投与しました。すると、副作用は見られなくなりましたが、治療効果も薄れました。その後、偶然にも希釈する際に激しく「振とう」すると、効果が高まることを発見しました。そして、「希釈」と「振とう」を繰り返すほどにレメディの効能が高まることを見出しました。しかし、「何故、そうなるか?」の証明は、未だなされていません。 

レメディの強さ(ポテンシー)

 レメディのラベルには「30C」や「200C」といったレメディの強さを表す記載があります。1/100「希釈」と「振とう」を30回繰り返したものが「30C」、200回繰り返したものが「200C」です。学生時代に化学を学ばれた方は、お気づきかもしれません。よく使用される「30C」でさえ、原料は「100の30乗=10の60乗」も希釈されており、アボガドロ定数から考えると、元の成分は1分子も残っていない可能性が高いと考えられます。「200C」であれば「10の400乗」です。しかも、「200C」の方が「30C」よりもポテンシーは高いとされています。これに対しては、科学的な説明がまったくつきません。

ホメオパシーに対する各国の評価

 上述のように科学的な説明がつかない一方で、ホメオパシー療法は世界の80か国以上で広く利用されており、代替医療(日本であれば国家資格のある鍼灸、柔道整復術、指圧などがその例)として認められている国が20ヶ国以上あり、健康保険の対象となる国(イギリス、フランス、ルクセンブルグなど)も存在します(2016時点の情報)。2010年に世界保健機関(WHO)はレメディの製造と使用に関する安全基準を明確化し、その内容を発刊しました。最近では、2020年にインド政府がCOVID-19感染予防にArsenicum Album 30Cを推奨したのが印象的です。
 一方、近年になってホメオパシーの有効性を否定する国が次々と増えているのも事実です。日本では2010年に日本学術会議が会長談話を発表し、日本医師会、日本薬剤師会、日本歯科医師会などもそれに賛同しました。イギリスでは王室を含めて広く利用されていることが知られていますが、2017年に健康保険の対象から外されました。オーストラリアでは2014年にホメオパシーの有効性を否定する答申が出されました。ドイツではレメディは医薬品とされ、薬局以外での販売は禁止されていますが、2004年にいくつかの例外を除き健康保険の対象外となりました。アメリカ合衆国では健康食品と同等の扱いで、2016年に他の一般用医薬品と同じ基準を適用することが決まりました。2017年には米国食品医薬品局(FDA)は、重度の疾患治療(癌など)を目的とする場合には処方箋が必要なことを要求しています。一方で、自然治癒可能な軽度の体調不良(風邪、頭痛など)の治療には処方箋なしで販売できます。
 興味深いことに、スイスでは2005年に健康保険対象外となりましたが、2017年から再度、健康保険の対象に組み入れられました。これは、有効性が認められたからではなく、2009年に実施された国民投票の結果が反映されたからでした。
 上述のように、日本においてホメオパシーは否定されている状況にありますが、2000年に設立された医師、歯科医師、薬剤師、及び獣医師からなる日本ホメオパシー医学会(2005年に医療法人財団となった)は、現在も活動を継続中で2022年10月に年次大会が実施されました。2012年の段階で会員数が約440名ですが、現在の会員数は調べた限りでは分かりませんでした。

まとめ

 2010年にWHOが「レメディの製造と使用に関する安全基準」を明確化したにもかかわらず、特にそれ以降、諸外国においてホメオパシーの立場が急速に悪くなりつつあるのは不思議です。科学的な観点から見れば、「元の分子が存在し得ない希釈」、「希釈するほどに効果が強くなる」、及び「振とうにより効果が強くなる」といったことは、「科学の無視」や「荒唐無稽」という評価も致し方ありません。そして、西洋医学が主流を占める医学会にとって、そのような「新興宗教的な治療(日本医師会、日本医学会が用いた表現)」が広まっては、いろいろな意味で非常に困るのでしょう。
 このような状況下でも、日本ホメオパシー医学会に属する医者が多数いることも事実です。2010年の「日本学術会議が会長談話」及び「日本医師会の賛同」を彼らがどのような気持ちで聞き、それ以降の活動を続けているのでしょうか。活動を続けている医者の原点には、現時点では科学的に説明はつかないものの、ホメオパシーの有効性を実体験を通して確信していることがあるのだと思います。
 私自身は、2016年にホメオパシーを知り、家庭用のレメディのセットを購入しました。その直後に中学生だった長男が、学校のスキー旅行の前日に40度近い高熱を出し、関節痛及び筋肉痛を訴えたので、「間違いなくインフルエンザだろう」という認識のもと、Gelsemium(カロライナ ジャスミン)を与えたところ、翌朝には平熱となり、スキー旅行への参加を熱望するほどに回復したことがありました(当然、参加はさせませんでしたが)。こういう経験があったので、非科学的とはいえ、プラセボ効果以上のものがあるかもしれないと、やインターネットで情報を得ながら、今でもときどき使っています。
 コストは、上述のレメディの基本セット(約14000円)を購入すると最低でも5年間はとっておけるので、1日当たり8円です。基本的には不調なときに用いるので、用いない日が大半です。したがって、「1日当たり8円」は、ある意味で保険料的な意味合いです。
 注意点としては、ホメオパシーに頼りすぎないことです。これに頼りすぎて、西洋医学等へのアクセスが遅れることが一番の問題です。なお、副作用はありません。原料が希釈されて1分子も入っていない状態の砂糖玉であることを考えれば当然と言えます。
 私が製薬会社の研究員であった時には、ホメオパシーの話をしても、まったく興味を示さない同僚が殆どでした。理系人間にとっては、なかなか受け入れ難い話なのだと、その時にしみじみと思ったものです。
 とういことで、ここではホメオパシーを特に推奨はしませんが、WHOに認められており、国によっては健康保険も使えるような治療法であることを、まずはご認識していただければと思います。   

【参考資料】
・ホメオパシー Wikipedia
・スイスでホメオパシーが保険適用に SWI swissinfo.ch
・ホメオパシー 厚生労働省HP