ケトン体質となるにはココナツオイルでなくMCTオイルが良い理由

ココナツオイルのブームは何故去ったのか

 図書館で白澤卓二 医師著「ココナツオイル健康法」を借りました。以前、ココナツオイルがブームとなっていたのに、今ではすっかり耳にしなくなったと思いながらも読んでみると、非常に興味深い内容でした。ちなみに油脂に関しては、大学の授業で当時の「油(アブラ)の大家」として有名な教授から学びましたが、構造式を覚えるのが大変な記憶があるくらいで、面白かった記憶はありません。何故なら、油脂の種類と健康の関係が今のように明らかにされていなかったことが原因と思われます。ちなみに最近勉強し直して、投稿「同じ必須脂肪酸でもオメガ6系脂肪酸は控え、オメガ3系脂肪酸は摂る必要がある理由」として纏めたので、ご覧いただけると幸いです。

 ココナツオイルブームは、米国のメアリー・T・ニューポート 医師が2008年に「アルツハイマー病の治療法があるのに、誰もそれを知らないとしたら?」と題するレポートを執筆し、ギリシャで開かれた2010年アルツハイマー病国際会議での講演のテーマとなったことが契機とされています。白澤卓二 医師がそれを紹介する形で先述の本を始め多くの本を著し、日本では2015年頃にブームとなりました。ココナツオイルの摂取が認知症、がん、糖尿病などに対して効果があるからという理由だけでなく、身体の代謝を糖代謝から脂質代謝に変える(ケトン体質になる)ことで、「太らない、疲れない、老けない」という夢のような健康状態が実現可能だと謳われたからです。

 しかし実際には、厳密な糖質制限と組み合わせる必要があるとされ、病気(認知症、がん、糖尿病など)を治すためなら耐えられても、「ただ健康のために」という理由で続けるには敷居が高すぎたせいか、ブームは比較的直ぐに終焉を迎えました。きっと、2016年にオートファジーの研究で大隅良典 教授がノーベル賞を受賞し「プチ断食(16時間断食)ブーム」が起こったことも関係しているでしょう。プチ断食であれば朝食を抜くだけでよく、昼食や夕食には糖質制限をする必要はないので比較的取組み易いからです。そして、2018年にハーバード大学 T.H.チャン公衆衛生大学院のカリン・ミシェル教授が「人が口にする最悪の食品のひとつである」と予防腫瘍疫学学会で心臓脈管系にもたらす悪影響を発表したことが決定的なダメージとなりました。ちなみに、アメリカ心臓協会も同様の発表をしています。 

MCTオイルとは

 ココナツオイルは、含まれる脂肪酸のうち中鎖脂肪酸(Medium Chain Triglyceride、MCT)が約6割(そのうちの約8割がラウリン酸)を占めると考えられていました。ところが中鎖脂肪酸に分類されているラウリン酸が長鎖脂肪酸の性質を持つことが判明し、ココナツオイルは中鎖脂肪酸を摂るための油としては適さないことが分かりました。そのような中で、ココナツオイルを蒸留して中鎖脂肪酸のうちカプリル酸、及び(又は)カプリン酸を取り出して調製したMCTオイルが考案されました。ちなみに、「MCTオイル」というネーミングは化学合成された感じがして初耳のイメージは良くないので、「中鎖脂肪酸オイル」とした方が良いと感じます。


脂肪酸の分類

 それでは、なぜ中鎖脂肪酸が身体にとって良いと考えられているのでしょうか。中鎖脂肪酸は炭素鎖長が長鎖脂肪酸と比べて短く、小腸から直接肝臓に運ばれて分解されるので、リンパ管や静脈を通って脂肪組織や筋肉、肝臓に運ばれる長鎖脂肪酸と比べて4~5倍速くエネルギーになります。したがって、体脂肪になりにくいといった特徴があります。そして、上述したようにMCTオイルの摂取が認知症、がん、糖尿病などに対して効果が期待されるからという理由だけでなく、身体の代謝を糖代謝から脂質代謝に変える(ケトン体質になる)ことで、「太らない、疲れない、老けない」という夢のような健康状態が実現可能と考えられるからです。


ケトン体質とは

 身体がエネルギーを作り出すメカニズムには「糖燃焼回路」と「脂肪燃焼回路」があります。穀類等からの糖質を食べ続けている以上、手っ取り早く使える「糖燃焼回路」によりエネルギーを得ます。これは、身体がいつ来るかもしれぬ飢餓に備えて蓄えられた脂肪を使わないようにするからです。

 一方、糖質が十分に供給されない状況下においては、「脂肪燃焼回路」が稼働してエネルギーを得ます。つまり、肝細胞のミトコンドリアにおいて、蓄積された脂肪がエネルギーに変換されてケトン体(アセト酢酸、 β‐ヒドロキシ酪酸、 アセトンの総称)が産生され体内のミトコンドリアが活性化します。その結果、エネルギーが充足されて脂肪を燃焼し続ける好循環がもたらされます。身体がこのような状態にあることを「ケトン体質」といいます。なお、ケトン体が細胞のオートファジーを活性化することも報告されています。

 ところで、「ケトン体質」という言葉を初めて耳にしたときは、余り良い印象はありませんでした。私が理系だからか、「ケトン」と聞くと何か特殊(化学[ばけがく]的)なイメージを抱いてしまい、そのような体質に敢えてなりたいとは思わないからです。

 「ケトン体質」というネーミングはさておき、人類は長い歴史の中では食事は動物や魚介類といった動物性タンパク質が中心であり、穀物を主食とするようになったのは農耕文化が始まったとされる約1万年前よりも後と言われています。したがって、「脂肪燃焼回路」が稼働してエネルギーを得る状態は、現代でこそ「糖燃焼回路」の陰に隠れて馴染みがありませんが、決して身体の特殊な状態ではないということです。
 

MCTオイル摂取により糖質制限なしでもケトン体質になれる

 糖質制限をしても、数日で「ケトン体質」になることは難しいとされています。一方、MCTオイルを継続して摂取することで「脂肪燃焼回路」にスイッチが入り、本来であれば糖質制限をしないと産生され難いケトン体を通常の食事をしていても産生し得ることが報告されています。

 具体的には、普段の食事をしても朝食に2gのMCTオイルをプラスするだけで2週間後には脂肪燃焼を促す効果が確認されました。これは、厳密な糖質制限をしないとケトン体質になれないという定説に反する非常に興味深い内容です。ただし、より効果を期待するには糖質制限と組み合わせることが必要と思われます。

ケトン体質になることの利点

 サッカー元日本代表の長友佑都選手はケトン体質になることで90分間走り続ける体を手に入れたそうです。糖質はグリコーゲンとして200~300 g程度しか肝臓に蓄えられませんが、(ケトン体質でエネルギー源となる)脂肪は数kg単位で身体に存在するので、短時間にエネルギーが枯渇することはないからです。

 また、 ケトン体質になることで、がん、認知症、糖尿病などの症状改善や予防効果が期待されます。実は、ケトン体産生のための糖質制限は介護、医療、スポーツ、生活習慣病予防など、様々な場面で以前から世界的に実施されてきました。古くは1921年に米国でケトン食(高脂質・低糖質)が「てんかん発作」を改善することが報告され、2016年に厚生労働省はケトン食を「てんかん食」として認可しています。

 さらに、ケトン食が ”がん” に対して有効であるという題名の本も見かけます。「がん細胞はエネルギー産生を糖に依存していること」及び「がん細胞は酵素の欠如によりケトン体をエネルギーとして上手く使えないこと」から、厳密に糖質制限を行ったケトン食により、正常細胞にダメージを与えることなくがん細胞を弱らせることが出来るという考えに基づく治療法に関する内容です。



 ブドウ糖とビタミンCは分子 構造がとてもよく似ているので、糖質制限下ではビタミンCががん細胞の中に取り込まれやすく、取り込まれると過酸化水素が発生してがん細胞を破壊する(がん細胞は過酸化水素を分解する酵素カタラーゼをもっていない)という考えに基づく治療法も提案されています。

 これら治療法とその原理を私が初めて知った時には、「ケトン食とビタミンC点滴を組み合わせれば、”がん” に対して最強ではないか」と思いましたが、そう簡単ではないようです。なぜなら、”がん” に対するケトン食療法の臨床試験を進めている第一人者である大阪大学大学院特任教授 萩原圭祐 医師ご自身が、ケトン食療法が臨床試験で予想を上回る効果を得られたとしつつも、次のように述べられているからです。「研究開始当初は、ケトン食が効果を発揮するメカニズムとして兵糧攻め説が有力と考えていましたが、ケトン食導入しても食事由来の糖質の枯渇を補うべく、体内の糖新生によってアミノ酸等から内因性の糖が作られるために極端な低血糖を示すことはありませんでした。また兵糧攻め説では、がん細胞がケトン体を利用できないことが前提となっていますが、がん細胞は種類によってケトン体を利用するための酵素の発現パターンやケトン体を取り込むトランスポーターの発現パターンなどが異なり、必ずしもそうであるとは限りません。」 とはいうものの、ケトン食が効果を発揮するメカニズムが思っていたほど単純ではないだけで、”がん” に対して効果があることは間違いないようです(論文)。 

 ケトン体質になることの利点としては、上述のように持久力向上やがん、認知症、糖尿病、てんかんの症状改善や予防効果があり、それ以外にもダイエット、長寿、腎障害、脂肪肝、炎症性疾患などに対する効果が期待されます。

  

通常、1日の糖質摂取量は男性で約300g、女性で約250gといわれていますが、厳しい糖質制限ダイエットでは1日の糖質摂取量を60g程度に抑えることもあります。もともとはケトン食は1921年に医療現場で開発されました。現在もてんかんの発作を抑えるための食事として世界で活用されており、日本でも2016年に保険適応食として認可されています。サッカー 日本 代表 の 長 友 佑 都 選手 が 注目 する よう に なっ てから、 ケトン 食 が 世の中 に 広く 知ら れる よう になり まし た。2016年には日本の国立精神・神経医療研究センターの共同研究グループが、「MCTを含むケトン食の摂取」で認知症でない高齢者の認知機能が向上することを世界で初めて明らかにしました

具体的にMCTオイルをどう取り入れるか?

通常、1日の糖質摂取量は男性で約300g、女性で約250gといわれていますが、厳しい糖質制限ダイエットでは1日の糖質摂取量を60g程度に抑えることもあります。もともとはケトン食は1921年に医療現場で開発されました。現在もてんかんの発作を抑えるための食事として世界で活用されており、日本でも2016年に保険適応食として認可されています。サッカー 日本 代表 の 長 友 佑 都 選手 が 注目 する よう に なっ てから、 ケトン 食 が 世の中 に 広く 知ら れる よう になり まし た。2016年には日本の国立精神・神経医療研究センターの共同研究グループが、「MCTを含むケトン食の摂取」で認知症でない高齢者の認知機能が向上することを世界で初めて明らかにしました

 病気(がん、認知症など)の症状改善のためにケトン食を導入する場合は、医師の指導を仰ぐのが基本です。なぜなら、上述した大阪大学で実施された “がん” に対するケトン食療法の臨床試験における糖質制限では、例えば体重50 kgの患者さんの1日あたりの摂取糖質量は、10 g(~1週間)、20 g(2週間目~3ヵ月)、30 g(3ヵ月~)です。3食共に主食(ご飯、パン)を食べなくても、食材や調味料などからの糖質を1日に50 g程度は摂取しているといわれており、1日当たり10~30 gの糖質摂取量で収めるのは個人では非常に難しいばかりでなく危険だからです。

 一方、ダイエット、長寿、及び各種病気予防のためにケトン食を導入する場合は、糖質制限もそこまで厳密にする必要はないので、自己判断での実施も可能です。ちなみに、米国糖尿病学会では糖質制限食を「1日糖質量130 g以内の食事」と定義しています。そこで、個人で実施する場合には、一番簡単・安全で且つ効果も期待できる1日糖質量130 gを まずは目指すのが良いでしょう。1日に摂取する主食以外の食材や調味料などに50 g程度の糖質が含まれることを考えると、主食としては1日に80 g(130 - 50 )の糖質を摂れる計算となり、ご飯小盛(約90 g)の糖質量が約30 gなので、3食ともに小盛よりやや少ないご飯とすることで「1日糖質量130 g以内の食事」を実現可能です。

 そして、忘れてならないのはMCTオイルを摂取することです。これは、MCTオイルを摂取することで「脂肪燃焼回路」にスイッチが入り易くなること、及び糖質制限により不足したカロリーを補うことの両方の観点からです。糖質を80 g(又は50 g)以下に制限しないとケトン体が産生されないと記載されている本もありますが、MCTプラスコンソーシアムでは、「普段の食事をしても(特に糖質制限なしでも)朝食に2gのMCTオイルをプラスするだけで2週間後には脂肪燃焼を促す効果が確認された」と報告していることから、「1日糖質量130 g以内の食事」と「3食ともに2~5 g(小さじ半分~1杯)のMCTオイルを摂取する」の組み合わせが良いでしょう。なお、この摂取量では糖質制限によって不足するカロリー補充には十分でないので、肉、魚、チーズなどを意識して多く摂るようにして下さい。


体験談

 がん治療で実施される厳密な糖質制限を取り入れたケトン食は、上述したように個人で取り組むには難しいし、そもそも “がん” でなければ取り組む必要がありません。そこで、「糖燃焼回路」と「脂肪燃焼回路」がハイブリッド自動車のように交互に働く「ぷちケトン体質」を目指すことにしました。それにより、「太らない、疲れない、老けない」と共に、“がん” や認知症の予防効果を期待しています。あくまでも食の楽しみが失われない程度の糖質制限(3食とも小盛よりやや少なく)で、どれくらい「ぷちケトン体質」が実現できるのかを妻と一緒に試しています。



 MCTオイルは、比較的安価(450 g、1600円)で「化学溶剤を一切使わないナチュラル製法」という観点から上記の商品を利用しています。これを、みそ汁又はスープに小さじ1杯入れて3食すべてで摂っています。コーヒーやヨーグルトへの添加も勧められていますが、みそ汁やスープは美味しくなるのに対して、コーヒーやヨーグルトは私には不味く感じます。ちなみに、調理に用いると煙が出るので不向きですが、熱には強い(酸化されにくい)ので熱いものに入れるのは問題ありません。なお、初めて摂った時には、お腹が少し痛くなったり便が緩くなるといわれていますが、私も同様でした。しかし、1週間経つ頃には問題なくなりました。

 また直ぐに実感したのが、自分は「糖質中毒」になっているということです。可能であれば、まったくご飯を食べない食事も時々実現出来ればと思っているのですが、少しでもいいからご飯を食べたくなってしまうのです。「糖質中毒」は医学界では「アルコール中毒」や「ニコチン中毒」のようには正式に認められていませんが、この分野ではよく知られた概念と思われます。まさに、「アルコール中毒」や「ニコチン中毒」になると、こんな感じで酒や煙草が欲しくなるのかと思います。恐らく皆さんの多くが「糖質中毒」なのではないでしょうか。そういった意味では、3食ともに小盛よりやや少なくご飯を食べられる「ぷちケトン体質」は非常に取組み易いのではないかと思います。

 「ぷちケトン体質」となることで、「太らない、疲れない、老けない」と共に “がん” や認知症などの予防効果を期待していることを先に述べましたが、目に見える形で効果を実感するのは難しいので、「ぷちケトン体質」となっている否かをリアルタイムで把握したいと思い、ケトンメーターを購入しました。


 ケトンメーターは呼気中のアセトン濃度を測定するもので、この値から血中のケトン体(アセト酢酸、 β‐ヒドロキシ酪酸)濃度の予測が可能と報告(下図)されています。安価(4000円程度)なので精度に不安はありますが、「このグッズが有ると無いとでは大違い」と感じています。

注)BrAce: 呼気アセトン濃度
呼気アセトン濃度と 血中β‐ヒドロキシ酪酸濃度の関係(論文から引用)

  

 現在、「ぷちケトン体質」を目指して2ヵ月ほど経ちます。寝る前(夕食後3時間)と朝起きたときの2回、ケトンメーターで計測していますが、寝る前は私が0~8 ppmで、妻は10 ppm以上であることが殆どです。ちなみに、呼気アセトン濃度は2 ppmから少量の体脂肪分解が始まり、10~40 ppmが目指すべき濃度と言われています。また、断食による呼気アセトン濃度としては 2~170 ppmという報告があります。

 昼食は外食すると糖質を抑えるのが難しいこともあり、寝る前の測定の際に、「今日は低い値だろうな」と思うと実際に「0 ppm」であることが多いです。一方、妻は小食でご飯をあまり食べられないことが関係しているのか、同じ様な食事をしても10 ppmを切ることは殆どありません。一方、朝起きたときの計測では、私も妻もたいてい「0 ppm」です。

 断食するとケトン体が上昇すると報告されているので、「寝る前」よりも「朝起きたとき」の方がケトン体は高くなるだろうと予想していたのでこの結果は意外でしたが、萩原圭祐 医師(上述)が著作で同様のことを記載されています。寝ている間にケトン体が消費されるとのことです。

 正確には分かりませんが、妻はもう既に「ぷちケトン体質」に、また私も少しづつ「ぷちケトン体質」に近づいている気がしています。しばらく、この緩い食生活(厳格ではない糖質制限・MCTオイル摂取)を続けてみて、変化があれば追記として報告したいと思います。

【参考資料】

糖質制限はやらなくていい 萩原 圭祐
「ケトン体」こそ人類史上、最強の薬である 宗田 哲男
糖質制限革命 江部康二
「Medium Chain Triglycerides Modulate the Ketogenic Effect of a Metabolic Switch」 Camille Vandenbergheら
・その他(本文中に記載した3冊)