血液型により疾患のリスクに違いがあることをご存じですか?

 

血液型と性格

 「血液型を聞くとその人の性格をある程度、想像が出来る」と私は感じています。しかし、これには科学的な根拠のないことが論文として発表されており、そもそも このような血液型と性格を関連づける習慣は 日本、韓国、台湾などの一部の地域に限られるそうです。

 このように「血液型と性格が無関係と実証されている」ことは余り聞いたことがない話だと思います。ところで、「血液型により感染性 及び 非感染性の疾患のリスクに違いがある」ことが科学的に明らかなことはご存じでしょうか?

血液型とは

 教科書的な説明となりますが、血液型とは赤血球表面に存在する糖鎖の違いによる分類です(下図参照)。一般に糖鎖は細胞同士のコミュニケーション、細胞の質の管理、免疫系のコントロールなど 非常に重要な働きを担うことが分かっています。血液型糖鎖にはA型、B型、O型糖鎖がありますが、AB型の糖鎖はありません。AB型のヒトには、A型とB型の両方の糖鎖が使われています。

 ヒトは自分が持つ血液型糖鎖に対する抗体を血清中に持ちません。一方、自分が持たない血液型糖鎖に対して自然抗体を血清中に持っています。つまり、A型の人は抗B型抗体を、B型の人は抗A型抗体を、O型のヒトは抗A型抗体 及び 抗B型抗体をもち(抗O型抗体は存在しない)、AB型のヒトはどちらの抗 体も持っていません。これがO型のヒトに輸血が必要となった時にO型の血液のみ輸血が可能で、AB型のヒトに輸血が必要となった時には いずれの血液型の輸血も可能な理由です。

 ちなみに、このような血液型による糖鎖の違いは糖転移酵素の働きにより生じますが、その糖転移酵素を制御するのは遺伝子(DNA配列)です。一個人内であればDNA配列は どの細胞でも同じなので、赤血球だけではなく全身の細胞において「血液型による糖鎖の違い」が存在します。

広島大学 大学院統合生命科学研究科HPから


血液型と感染性の疾患のリスク

 細菌やウイルスがヒトに感染するためには、上咽頭、眼、消化管などの細胞表面の糖鎖を手掛かりとしていることが分かってきました。そして、血液型糖鎖をターゲットにしている病原体も多く、血液型の違いによる化学構造の違いを認識している病原体もいます。上述のように赤血球以外の全身の細胞において「血液型による糖鎖の違い」が存在します。したがって、血液型により感染症のリスクが異なるといった現象が生じます。 

 ところで、細菌やウイルスにも血液型があるということをご存じでしょうか? 正確には、ABO式血液型の特異性を示す血液物質(A型抗原、B型抗原)が存在します論文)。ところで、A (B) 型インフルエンザ や A (B) 型肝炎という呼び名をご存じかと思いますが、これはA型、B型どちらの血液物質を持つかによるウイルスの分類であり、私たちは何気なく「ウイルスの血液型」に触れていたといえます。そして、驚くなかれ、血液型物質を最初に持ったのはヒトよりも細菌の方が先で、その一部がヒトの腸内細菌として住みつき、遺伝子導入の結果、ヒトの血液型ができたと考えられています。

 <血液型とは> で述べたように、ヒトは自分が持つ血液型糖鎖に対しては自然抗体を血清中に持っていません。輸血における考え方と同様に、A型のヒトは抗A型抗体をもたないのでA型抗原をもつ病原体はA型の体内に侵入し易いといえますが、その程度はウイルスによって異なり、多くは大規模な統計によって差が分かる位です。同様に、B型抗原をもつ病原体に対してはB型のヒトが感染し易いといえます。なお、O型の人は抗A型抗体 及び 抗B型抗体をもち、AB型の人はどの血液型糖鎖に対しても抗体を持っていないことから想像できるように、一般的にみて感染症に一番罹り易いのはAB型、罹り難いのはO型とされます。しかし、これですべてが説明できるわけではなく、O型が感染し易い病原体(コレラ、ペスト、結核感染症、おたふく風邪など)があることも知られています。

 ここまで読むと、「COVID-19ではどうなの?」と思われることでしょう。これに関しては幾つか論文があり、「O型はCOVID-19の感染リスクがやや低いのに対し、A型 及び AB型は感染リスクがやや高い傾向がある」という結果です。 
 
 このような「血液型」という多様性により、ある特定の感染症が猛威を奮ったとしても、それに対して強い個体、弱い個体がいることで、「種」として生き残る確率を高めていると考えられています(仮説)。

血液型と非感染性の疾患のリスク

 非感染性の認知症、循環器疾患、がん、心血管疾患、血液疾患、代謝性疾患などの様々な疾患」もABO式血液型と関連していることが論文となっています。上述の <血液型と感染性の疾患のリスク> と比べれば余り分かっていない状態ですが、そんな中でも認知症や心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)といった循環器疾患に関しては、O型血液が固まり難いこととO型の疾患リスクの低いことが関連している可能性が示唆されています。ちなみにO型では血液凝固因子の一部が非O型と比べて少ないことが分かっており、失血による死亡リスクの高いことが2018年に報告されています。 

 

血液型と食べ物の相性

 

 寄生虫博士で知られた藤田紘一郎 医師の著書「血液型と免疫力」には、「血液型と食べ物の相性」が紹介されています。血液型物質は、ウイルス、細菌からヒトに至るまで存在しますが(植物は1割程度にしか存在しない)、例えば抗B型抗体をもつA型のヒトはB型抗原をもつ食べ物(羊肉、牛肉、馬肉、クジラ、はまぐり等)を過剰に摂らないのが望ましいと記されています。今まで聞いたことも気にしたこともなかったけれども、確かに科学的にみて説得力のある話だと思いながら読みましたが、調べた限りでは真実なのか分かりませんでした。藤田 医師が「寄生虫感染の減少と花粉症の増加の関連」を誰も見向きもしなかった ずっと昔(1977年)から提唱し続けていたことを思うと、将来、「血液型と食べ物の相性」も当たり前のことになるかもと期待(?)したりしてしまいます。

最後に

 <血液型と性格>で記したように、血液型と性格が無関係と実証されています。一方で、「そうは言っても、やはり関係ありそうだな」と思う方も きっと多いことでしょう。

 「血液型と性格が関係ある」と提唱する学者が挙げる理由の一つに、A型は農耕民族、B型は遊牧民族、O型は狩猟民族という民族ルーツ説があります。先述の藤田紘一郎 医師は 民族ルーツ説を支持しつつ、さらに「ヨーロッパや米国ではO型以外の血液型の人口が激減した梅毒に対する抵抗性の有無が行動や性格を決定づける要因の一つになったのでは」と著書「血液型と免疫力」に記しています。つまり、「O型は免疫力が高いので、他人との接触を恐れない開放的な性格になり、それに関与する遺伝子(例えば神経伝達物質)が引き継がれていった」ということです。目から鱗で非常に興味深い話として挙げさせて頂きました。