各種疾患の原因となる慢性炎症 _ その予防と対策



各種疾患の原因となる「慢性炎症」とは?

 感染症による発熱などの「急性炎症」に対して、自覚症状がない弱い炎症が体内で長期間に渡って続く「慢性炎症」が近年知られるようになりました。「慢性炎症」生活習慣病(糖尿病、動脈硬化など) や がん、認知症、心筋梗塞、脳梗塞、うつ、老化 など、炎症とは無関係とされていた様々な病気の発症にも関わっていることが分かってきています。

 医者や大学、製薬会社等の研究者を対象とする月刊誌「実験医学」では2010年に「慢性炎症」の特集が組まれています。最近では2021年に「Bio Clinica」が、2023年には「医学のあゆみ」が取り上げており、非常にホットな話題といえるでしょう。




 一方、一般向けとしては 例えば「断食」、「糖質制限」、「睡眠」に関する本のように数多くは出版されておらず、調べた限り以下の書籍ぐらいしか見つけることが出来ませんでした。したがって、日本において「慢性炎症」は まだ広く知られた概念ではないといえるようです。

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「慢性炎症」は何故起こる?

 上記の本を読んだりインターネットで情報を集めたところ、「慢性炎症」の原因としては感染、酸化(活性酸素)、喫煙などの生活習慣、過度なアルコールの飲酒、ストレス、糖化(終末糖化産物: AGE)、睡眠不足、性ホルモン濃度、自己免疫疾患、老化細胞、内臓脂肪型肥満などが挙げられています。

 これら原因の中から余り知られていないけれども重要な 2つを ここでは取り上げて説明したいと思います。

老化細胞
 2014年に 加齢(aging)と「慢性炎症 (inflammation)」の関連に注目した概念「inflammaging」が提唱されました。つまり、齢をとれば「慢性炎症」は避け難いということです。加齢で生じる老化細胞からは細胞老化関連分泌因子(SASP因子)が分泌されます。このSASP因子は「慢性炎症」を誘発し、周囲の臓器や組織にも炎症状態を広げ、正常な細胞を老化させていくと考えれています。また、加齢とともに蓄積する自己残骸が自然免疫を活性化し「慢性炎症」を引き起こすと考えられます。 

内臓脂肪型肥満
 肥大化した内臓脂肪を余計なものとみなして免疫細胞(マクロファージ)が増加し、このマクロファージが炎症性サイトカインを分泌して「慢性炎症」を引き起こします。一方、魚に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)がマクロファージの機能を「炎症促進」から「炎症抑制」へと切り替えることが知られています。

慢性炎症を抑えるための方策

 上述した様に、現代人は「慢性炎症」の原因に取り囲まれているので、「規則正しい生活や食習慣をする」といった従来型の方策だけで対応するのは困難だと思うでしょう。そして、どうにも避けがたい「加齢」が原因となるのであれば「積極的な方策(サプリメント摂取など)」が取れないものかと きっと誰もが思うことでしょう。

 以下に紹介する方策は、いずれもが本ブログで「健康になるための方策」として既に紹介しているものです。記事を書いたときには、「慢性炎症」という視点で纏めようと意識したことは まったくありませんでしたが、「健康になるための方策」=「慢性炎症を抑えること」に他ならないからこそ このような結果(以下で紹介する いずれの方策も本ブログで既に紹介している)になったのだと思います。これらの方策は、「慢性炎症の予防や対策」に関する情報を集めようとする中ではたどり着けないものが多いですが、読んでいただければ分かるように いずれもが科学的な裏付けがあり、大きな効果を期待できると考えます。

ビタミンDの摂取
 2023年にビタミンDは「慢性炎症」とも関係していることが報告されました。具体的には、英国の約30万人の血中ビタミンD濃度と炎症のバイオマーカーとして広く使用されている C反応性タンパク質 (CRP) との関連を分析したところ、用量依存的に逆相関(血中ビタミンD濃度が低いほどCRPが高値)していることが分かったという内容です。この結果から、血中ビタミンD濃度は 最低でも50 nmol/L(20 ng/mL)にはキープしたいところです。

 

注)ドット(●)は血清25(OH)Dの欠乏とされる基準点の50 nmol/L(20 ng/mL)を表しています。影付きの領域は95%信頼区間を表します。


 一方、東京慈恵会医科大学のプレスリリース(2023年)では、「殆どの日本人の血中ビタミンD濃度は不足とされる基準 30 ng/mL未満であり、その多くは欠乏とされる基準 20 ng/mL未満」という驚きの内容が報告されました。この結果をみると、現代人の生活習慣病をはじめとする疾患の多くは、ビタミンD不足が大きな原因の一つと思うのではないでしょうか。具体的な対策は、投稿「キットを購入し血中ビタミンD濃度を測定しました」をご覧下さい。

東京慈恵会医科大学のプレスリリース(注:横軸の単位はng/mL)

 
水素吸引
 先に「慢性炎症」の原因として挙げた 喫煙などの生活習慣、過度なアルコールの飲酒、ストレス、糖化(終末糖化産物: AGE)は、それらにより発生する活性酸素が「慢性炎症」を引き起こします。つまり、活性酸素は「慢性炎症」の根本原因の一つです。投稿「先進医療として認可された水素吸引を月額4950円で始めました」でお伝えしたように、水素吸引により活性酸素の中でも最も反応性が高く有害なヒドロキシラジカルを選択的に消去できることが分かっています。しかも、炎症の原因となる活性酸素の発生を抑えるだけでなく、起こってしまった炎症を抑えることが出来ることからも非常に有効な方策と考えられます。

オメガ3系脂肪酸の摂取
 オメガ3系脂肪酸(魚油、亜麻仁油、えごま油等に含有)は「抗炎症」、一方で オメガ6系脂肪酸は「炎症」を誘発する分子の前駆体となることが分かっています。しかし、両方とも必須脂肪酸なので両者をバランスよく摂ることが大切です。具体的には、オメガ6系脂肪酸の摂取を控えてオメガ3系脂肪酸を意識して摂らないと理想的な摂取比の実現は困難です。詳細は、投稿「オメガ6系脂肪酸を控え、オメガ3系脂肪酸を摂る必要がある理由」をご覧下さい。

腸内フローラを整える(酪酸菌 及び 難消化デキストリンの摂取)
 最近では2021年に「発酵食品が腸内フローラに好影響を与え、炎症の抑制効果もある」という内容の論文がCell誌に発表されました。古くは2013年にNature誌に「腸内細菌が作る酪酸は制御性T細胞を誘導して腸管の炎症を抑制する」という表題の論文が発表されています。酪酸菌とその餌となる難消化デキストリンを摂取することが健康に役立つことを投稿「酪酸菌(強ミヤリサン)+ 難消化デキストリン」で既に紹介していますが、今回 調べる中で抗炎症という観点からも大切なアプローチであることを再認識させられました。


 上述①~④に比べると やや遠回りに感じられるかもしれませんが、以下⑤~⑦の方策も忘れないで下さい。何故なら、これら対策にも同時に取り組まないと焚火の消火(対策①~③)をする一方で薪をくべている(慢性炎症の原因をまき散らす)ようなものだからです。

  
口腔ケア
 「口腔ケア(ロイテリ菌、L8020乳酸菌、マヌカハニー等)」でお伝えしたように、歯周病と全身疾患の関連が分かって来ています。歯周病 自体がそもそも「慢性炎症」ですが、歯周ポケットの細菌が体内に侵入して血流に乗ること(菌血症)及び 産生した炎症性サイトカインの循環が、さらなる「慢性炎症」を引き起こして、敗血症、感染性心内膜炎、動脈硬化、脳卒中、糖尿病、及び認知症の発症や悪化の原因となります。つまり、歯周病は各種疾患の引き金となります。対策としては いろいろな口腔ケアがありますが、普通にセルフケアをしているのであれば、定期的に歯科医院で歯石を除去するのが一番有効な歯周病対策といえるでしょう。

慢性上咽頭炎の対策
 「上咽頭」と聞いてもピンとかないかもしれませんが、「PCR検査の際に長い綿棒を鼻から入れて検体を採取する部位」といえば容易に想像がつくでしょう。「慢性上咽頭炎」という概念は医学の教科書への記載がなく、医師国家試験にも出題されないそうです。しかし実際には内視鏡検査で明らかに上咽頭の炎症が確認され、それを治療することで頭痛、慢性疲労、めまい、不眠、うつ等々の全身の不調を改善出来ることが分かって来ています。これは③(口腔ケア)における歯周病と全身疾患の関係と非常によく似ています。具体的な対策としては、Bスポット療法、鼻うがい、口テープ等により改善効果が期待されます。詳細は「鼻うがい(新型コロナ、慢性上咽頭炎の対策)」をご覧下さい。

糖質制限、ケトン体質
 糖質がタンパク質とくっついて熱を加えられると、「慢性炎症」の原因として挙げた終末糖化産物( AGE)という物質に変化します。フライドポテトはAGEが大量に含まれることは良く知られていますが、体内でもAGEが作られることは余り知られていません。体内でできるAGEの量は「血糖値 × 持続時間」で表すことができ、血糖値が高いほど体の中で糖とタンパク質が結びついて多くのAGEが発生します。このような理由から、糖質制限が「慢性炎症」の有効な対策と考えられます。糖質制限を実施するのが厳しい場合には、AGEを多く含む食品を極力食べないようにすること、また体内で生成されるAGEを減らす(血糖値を上げない)ためにも食べる順番に気を付けましょう(ご飯などの糖質は、野菜、肉、魚を食べた後に食べること)。

 また、糖質制限(+高脂質)の結果 産生され易くなるケトン体のひとつ(β-ヒドロキシ酪酸)に抗炎症作用があることが幾つかの論文で報告されています。したがって、「ケトン体質になること」は「慢性炎症」への積極的な対策と考えても良いでしょう。詳細は投稿「ケトン体質となるにはココナツオイルでなくMCTオイルが良い理由」をご覧下さい。

「慢性炎症」の程度を測定できるか?

 CRPは体内の炎症反応を示すマーカーで、重度の歯周病でCRP値が高まることが報告されていますが、軽度の歯周病や慢性上咽頭炎ではCRP値は変わらないとされています。つまり「慢性炎症」の程度をCRP値をもって判断することは困難です。

 したがって「慢性炎症」の予防や対策をしても、その結果を数値として確認することは難しいといえるでしょう。残念ながら、その確認は「体調の改善を自分で感じ取る」といった非常に曖昧な方法しかありません。ただし「① ビタミンDの摂取」で記述したように、血中ビタミンD濃度が 50 nmol/L(20 ng/mL)より低い場合(多くの方が該当すると思われます)にはCRP値が基準値(0.30 mg/dL以下[注:出典により値が異なる])よりも高い可能性があり、ビタミンDを摂取することでCRP値を低げられる可能性が高く、まず第一に取り組みたい対策と考えます。

 

まとめ

 先述したように、「健康になるための方策」=「慢性炎症を抑えること」に他ならないということを、今回のブログを書く中で改めて認識しました。また、こんなにも重要な「慢性炎症」が、専門家(医者や研究者)以外には広く知れ渡った概念ではないことも分かりました。そして「慢性炎症」に対してどのように立ち向かえばよいかを調べると分かりますが、ここにあるような最新の知見に基づく纏まった情報には中々たどり着くことが出来ないと思います。本投稿を読まれたからには是非とも「慢性炎症を積極的に抑え込むこと」に 取組んでみませんか。