オメガ6系脂肪酸を控え、オメガ3系脂肪酸を摂る必要がある理由



油脂の定説は時代と共に変わる

 大学生だった頃(1980年代)、「バターよりも健康に良いマーガリン」、「リノール酸が豊富に含まれていて健康に良い植物油」などと今では誰もが間違いと分かることが当時の定説でした。1990年代になって「オメガ6系脂肪酸(リノール酸)を控えてオメガ3系脂肪酸(α-リノレン酸、EPA、DHA: 魚、亜麻仁油、えごま油などに含有)を意識して摂るように」と言われるようになり、2004年頃から「マーガリンはトランス脂肪酸が多いので控えるように」と言われ始めました。そうです、油脂に関する定説は時代と共に度々変わりました。
 
 皆さんは次の内容をご存じでしょうか。「企業努力の結果、今ではマーガリンのトランス脂肪酸含有量はバターよりも少ない」と報告されていることを(私は初めて知りました)。このように油脂に関する定説のアップデートは知らぬ間にあるので今後も注意が必要です。 

そもそも油脂とは

 基本に立ち返ると、油脂(脂質)はタンパク質、炭水化物と並び3大栄養素(エネルギー産生栄養素の1つなので必要量をしっかり摂る必要があります。脂質は、具体的には以下に挙げるような役割があります。

・エネルギー源になる
・細胞膜、核酸、神経組織の構成成分となる
・ステロイドホルモンの原料となる
・脂溶性ビタミンの吸収を助ける
・体温を保持する
・内臓のクッションになる

 厚生労働省は2015年版「日本人の食事摂取基準」で、30歳以上が摂るべき脂質の目標量の上限を引き上げました。従来は総エネルギーに占める割合は25%だったのが30%になりました。

 厚生労働省によると、「脂質は生体成分のうち、水に溶けない物質」と(化学構造ではなく)物性によって定義されています。脂質は単純脂質(中性脂肪)、複合脂質(リン脂質、糖脂質)、誘導脂質(コレステロール)の3つに分類され、これらすべてを構成している重要な成分が脂肪酸です。ここで覚えておくべきは、①体内の脂質の約9割が中性脂肪であること、②脂肪酸が脂質の構成成分であることです。

オメガ3系脂肪酸は不足すると欠乏症が起こる必須脂肪酸であり、がんにも有効

 脂肪酸は炭素の長さで「短鎖脂肪酸」、「中鎖脂肪酸」、「長鎖脂肪酸」に分類されます。そして、脂肪酸中に2重結合があるか否かで「飽和脂肪酸」か「不飽和脂肪酸」に分類されます。さらに二重結合の数で一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分類されます。

脂肪酸の分類

 この表を覚えようとすると非常に大変ですが、ここでは摂取が推奨されるオメガ3系脂肪酸がこの表のどこに位置するかをご確認して頂ければと思います。オメガ3系脂肪酸およびオメガ6系脂肪酸は「必須脂肪酸」と呼ばれ、身体に不可欠な脂肪酸ですが体内で合成することが出来ないので食品として摂取する必要があります。オメガ6系脂肪酸は悪者呼ばわりされていますが、意外にも必須脂肪酸なのです。これら必須脂肪酸は生体膜の構成成分であり、コレステロール代謝や抗炎症にも関与することから、不足すると欠乏症(肌、髪、爪の異常や不眠、関節痛、心臓病のリスクの増加など)が起こることが知られています。

 また、2022年には「オメガ3脂肪酸の摂取、ビタミンD、及び簡単な家庭での筋力運動プログラムを組み合わせることで、高齢者のがんリスクを61%減らすことができる可能性が判明した」というかなりインパクトがある内容の論文が発表されました。詳細は他項(がん発症リスクを抑える栄養素[日本人で不足]が論文発表されました)をご参照下さい。

  

オメガ3系脂肪酸を効率よく摂取するには

 オメガ3系脂肪酸を摂るには以下①~③の方法がありますが、どれか一つではなく、これらを組み合わせてオメガ3系脂肪酸を効率よく摂取することが肝要です。

①魚をよく食べること(週2回以上)
②EPAやDHAのサプリメントを飲むこと
③亜麻仁油、えごま油のどちらかを冷蔵庫に常備して、(加熱に弱いので)そのままサラダにかけるかドレッシングを作ってサラダにかけること

オメガ6系脂肪酸は必須脂肪酸だが摂取を控えることが大切

 オメガ6系脂肪酸はアレルギー性炎症疾患の発症を高めることが知られています。一方、オメガ3系脂肪酸には抗炎症作用があり、両者をバランスよく摂ることで必須脂肪酸であるオメガ6系脂肪酸の働きを享受しつつ、デメリットの炎症作用を抑えることが出来ます。

 ちなみに、オメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸の理想的な摂取比は、4 : 1 ~1 : 1とされています。外食、パン、総菜、スナック菓子、冷凍食品等に用いられる調理油は、通常、オメガ6系脂肪酸の含有率が高く(下記の表を参照)現代人では摂取過剰になり易いので、オメガ6系脂肪酸の摂取を控えてオメガ3系脂肪酸を意識して摂らないと理想的な摂取比の実現は困難と考えて良いでしょう。 

 そこでオメガ6系脂肪酸の摂取を出来る限り抑えるために、フライパン等で加熱調理をする際にはオリーブオイルを使いましょう。ただし、天ぷらなどで大量に使う場合はキャノーラ油(サラダ油の中では一番オメガ6系脂肪酸の含有量が少ない)を用いるのが金銭面からみて現実的かもしれませんが、安全面での懸念があることを忘れないで下さい。ちなみに、スーパーの油が並べられた棚を見たところ、大容量(1000 mL)で販売されているのは大半がキャノーラ油でした。 


各種調理油のオメガ3, 6, 9系脂肪酸の含有率(%)


植物油は「原料がどのように品種改良されたか」によって安全性が変わる可能性がある 

 注意したいことはキャノーラ油には安全性の懸念がある点です。キャノーラ油には菜種(なたね)を品種改良して作ったキャノーラ品種(有害なエルカ酸[エルシン酸]がほとんど含まれない)が使われています。具体的には、1970年代後半にカナダのマニトバ州立大学において交配による品種改良でキャノーラ品種が作られた後、これまでに様々な遺伝子組み換えによる品種改良が行われてきました

 2020年に農林水産省がキャノーラ品種に関する安全性確認試験の結果を公表しました。ドコサヘキサエン酸(DHA、オメガ3系脂肪酸の一つ)を産生するために長鎖多価飽和脂肪酸合成に関わる7種の遺伝子が導入され、除草剤グルホシネート耐性を得るために除草剤耐性遺伝子(pat)が導入されたキャノーラ品種(NS-B50027-4)は、飼料として摂取する家畜等に対して安全上の問題はないと結論付けています。

 「なんだ、家畜用飼料の話か」と思われたかもしれませんが、報告書には以下の様な表が載っています。そうです、キャノーラ品種(NS-B50027-4)は以下の国では飼料と並行して食品でも用いられる状況になりつつあります。厚生労働省は、国内で販売・流通が認められた(海外の)遺伝子組み換え食品は安全であるとの立場ですが、まだまだ消費者側の安全性に対する懸念を払拭するには至っていません

キャノーラ品種(NS-B50027-4)承認に関する農林水産省公表資料に掲載の表


 一方、ひまわり油や紅花油でも品種改良でオレイン酸(オメガ9系脂肪酸)の含有率が高い品種が流通していますが、これは交配による品種改良であり遺伝子組み換えによるものではないので安心です。

植物油は「製造方法」によっても安全性が変わる

 オリーブオイル、亜麻仁油、えごま油等を購入する際に、高額な製品のラベルには「低温圧搾(コールドプレス)製法」と記載されています。逆に、この記載がない製品は通常、化学溶剤(ヘキサン)等を用いて高温処理で抽出されているので、酸化、栄養素の破壊、およびトランス脂肪酸の生成がみられることが指摘されています。一方、食品なので当たり前ですが、ヘキサンの残留は検出限界未満なので、その点の心配はしなくてもよいでしょう。

 一方、キャノーラ油ではどうでしょうか? 品種改良の元となる菜種油では、低温圧搾製法で作られたものもあるようですが、キャノーラ油では見当たりませんでした。大量に生産される油なので、低温圧搾では対応できないことが原因と思われます。オリーブオイルと同じ一価不飽和脂肪酸なので、比較的加熱等による酸化には強いとはいえ、化学溶剤等を用いた高温処理は酸化、栄養素の破壊、トランス脂肪酸の生成の観点から望ましくありません。ということで、キャノーラ油は積極的に摂る油ではありません

キャノーラ油で認知症が悪化する可能性がある

 米テンプル大学の研究グループがアルツハイマー病のマウスにキャノーラ油を与えたところ、学習能力と記憶力が低下し、体重増加を招くことを2017年に発表しました。ヒトにおいて、この結果がそのまま当てはまるとは限りませんが、やはり積極的に摂る油でないことは間違いないでしょう。