
本検査は早期がん発見のための技術で、匂いに敏感な線虫が、全てのがん患者の尿には誘引行動を示す一方で、全ての健常者の尿には忌避行動を示すこと、及びステージ1(2 cm以下、リンパ節転移なし)の早期がんに対しても反応する性質を利用しています。2015年に九州大学が発表した技術が基になっており、私も、そのような技術が開発されたことを知ってはいましたが、九州大学助教だった広津崇亮氏が設立した株式会社HIROTSUバイオサイエンスが「N-NOSE」として、既にこの検査(尿を送付するだけでよく、14,800円と予想よりも安価)を実用化していることを知りませんでした。この検査では、がんの種類を特定できないことが弱点でしたが、大阪大学との共同研究により、膵臓がんにだけ反応性が変わる線虫の開発に成功し、2023年1月4日から、早期に発見するのが困難な膵臓がんを特異的に検知可能な検査「N-NOSE plusすい臓」も発売されました。これまで早期発見が困難で、発見されたときには手遅れとなることが多い「すい臓がん対策」として大いに期待されます。


「すばらしい検査が出来たものだ」と思っていたところ、医師・森 勇磨先生はデメリットを幾つか挙げています。陰性の結果により、がんが存在しないことを確認出来れば良いのですが、偽陽性も起こり得る中で、陽性の結果が出た場合の「精神的ストレス」及び「次なる検査の体への侵襲性」が問題となるとのことです。現状では、検査によって利益が得られるという明確なエビデンスが出ておらず、「現段階では」医師の立場としてお勧め出来る手法ではないということです。同様な指摘は、国立がん研究センター 中山富雄 検診研究部長及び東京大学 中川恵一特任教授からも挙がっています。
もう少しかみ砕いて説明します。このがん検査(N-NOSE)では、HP(上に掲載)でもあるように、がんをステージ1(1~2 cmの早期がん)のときに見つけることが非常に重要です。そのために、半年毎の受診が推奨されています。「早期がん」の過程は1~2年間で経過してしまうので、しばらくぶりに検査を受けて陽性と気づいたときには「ステージ2以上」に上がっている可能性があります。推奨通りに半年毎にN-NOSEを受診していれば、仮に検査で陽性となっても、ステージ1であることに確信が持てるので、N-NOSEを受けないで「五大がん検診」や「人間ドッグ」でがんが発見される場合(ステージが進んでいる可能性がある)に比べて精神的ストレスは低いと思われます。そして、その後の検査で「がん種」を特定出来て早期治療(例えば副作用の少ない陽子線治療など)に繋がれば、理想的です。しかし、偽陽性であった場合はどうでしょうか。「五大がん検診」、「人間ドッグ」、及び「PET検査」等の「存在しない癌を探す」検査を、程度の差こそあれ受け続けることになるでしょう。その結果、がんは見つからなかったとしても、精神的ストレスは決して低くないと思われます。
その他にも、「年齢」もN-NOSEを受けるか否かを決める上で大きな要因となるでしょう。一般的にがん発症の際のリスクは高齢になるほど高くなりますが、70歳を越えるとがんで亡くなる割合は減っていくため、「五大がん検診」を受ける目安は75歳までとされています。
これらを総合的に判断して、判断されるのが良いと思われます。