呼吸法とは

 脈拍、血圧、発汗、体温、消化、及びリンパの流れなどは、自律神経により支配されており、自分の意志ではコントロールが出来ません。呼吸も自律神経により支配されていますが、これらの中で唯一、自分の意志でもある程度制御が出来ることから、呼吸法(例えば腹式呼吸)によって自律神経が密集している横隔膜を上下させることにより自律神経を整えることが可能といわれています。このような理由から、ヨガ、座禅、武道などでは呼吸法が非常に重要とされています。

 最近では、アニメ「鬼滅の刃」で「全集中の呼吸」が話題となりましたが、起きている間だけでなく寝ている間にも「全集中の呼吸」を出来ることが炭治郎を含めた鬼殺隊士たちの目標でした。寝ている間は、呼吸は自律神経の支配下なので、意識的に制御することが非常に困難なことを表しています。

呼吸法は難しい

 呼吸法(腹式呼吸)が健康にとって大切なことは私自身も中学生頃から知っていました。しかし、「丹田を意識して腹式呼吸をする」のは、非常に難しく、また、それにより得られる効果も分かりにくいものでした。それは、私を含めた多くの人の思いであり、呼吸法が非常に大切だろうと思いながらも、なかなか世間に広まらない理由だと思われます。

 本屋に行くと健康本は非常に充実しています。 例えば断食に関する本は数多あり、「3 days断食」、「16時間断食」、「12時間断食」、「月曜断食」、「週1断食」、「プチ断食」という題名の本のいずれかを恐らく目にしたことがあるでしょう。その際に、題名から実施すべきことが推察出来るのではないでしょうか。一方で、呼吸法に関する本は幾つかありますが、題名から内容が推測出来る本は、美木良介 氏の「ロングブレス」ぐらいだと思われます。他は、「超呼吸法」、「究極の呼吸法」、「最高の呼吸法」、「きほんの呼吸」、「神呼吸」のように、何をすればよいのか題名からは分かりません。つまり、一言で題名と出来るような簡単な呼吸法は殆どないのです。そのような中で、以下に挙げる呼吸法は、いつでも簡単に実施出来てお勧めです。

4-7-8呼吸

 Andrew Weil博士(アリゾナ大学医学部教授)が考案した呼吸法で、日本では余り知られていませんが、米国ではストレスやプッレシャーを簡単に軽減できる呼吸法として広く浸透しているそうです。日本でも、故安部 元首相が実践していることが報道されました。安倍氏が首相在任中に国会質疑の中で行った虚偽答弁が118回に上ると報告されましたが、平然と答弁できる理由がこの呼吸法にあるとすれば、本当に有効な呼吸法と言えるでしょう。私の知る限り、本呼吸法に関して出版された書籍は、以下のムック本しかないようです。

 「4(吸う)-7(保持する)-8(吐く)呼吸法」と一言で実施すべき内容が理解出来ることからも分かるように簡単です。実施することは、以下の通りです。

① 頭の中で4秒間数えながら、鼻から胸いっぱいに息を吸いこむ
② 頭の中で7秒間数える間、吸い込んだ息を保持する(酸素が全身にいきわたるイメージを持つ)
③ 頭の中で8秒間数えながら、口から息を吐く

 この呼吸法は、立っても、座っても、寝ても出来ることが特に優れている点です。本呼吸法は、腹式呼吸法をすることが前提となっていますが、上述したように腹式呼吸と言ったとたんに難易度が上がるので、私は「8(吐く)」の部分に次項で述べるIAP呼吸(Intra Abdominal Pressure[腹圧呼吸])を取り入れています。これであれば、コツさえつかめば腹式呼吸と比べて非常に簡単です。また、自律神経が密集している横隔膜を上下させることは、腹式呼吸と共通しているので、自律神経に働きかけるといった点では腹式呼吸と変わらないと考えます。

 なお、2022年7月に4-7-8呼吸に関して唯一と思われる論文が報告されました。健康な若年成人を睡眠時間に応じて2グループに分け、睡眠不足が心拍変動、血圧、血糖等に対する影響と4-7-8 呼吸法がこれらにどのように影響するかを調査しました。その結果、睡眠不足の有無にかかわらず、4-7-8 呼吸法がこれらを改善する可能性が示されましたが、驚くべきは、調査当日に4-7-8 呼吸法が試験参加者に教えられたという点です。それほどまでに習得が簡単なことが分かります。どうしても難しい場合には、リズムを教えてくれる以下のようなアプリも有り、無料で利用出来ます。

IAP呼吸(腹圧呼吸)

 この呼吸法をご存じならば、かなりの健康オタクでしょう。恐らく下記の本や雑誌の特集ぐらいでしか、目にする機会はない呼吸法と思われます。しかし、スタンフォード大学に所属するアスリートや、全米記録保持者たちも実践しており、米国ではよく知られた疲労回復のための呼吸法だそうです。

 具体的な実施法は、腹式呼吸が息を吐くときにお腹をへこます(横隔膜が上がる)のに対して、IAP呼吸ではお腹を膨らませます(横隔膜が下がる)。こう聞くと、IAP呼吸も腹式呼吸と変わらずに習得が難しいと思われるかもしれません。しかし、イメージの持ち方次第で非常に簡単になります。私は高校時代に山岳部に所属して、夏山合宿や訓練山行では40 kg近い荷物を背負うことがあったのですが、荷物を背負うときには、背骨を守るために息を吐きながらお腹をぱんぱんに膨らませていました(横隔膜は下がる)。これは、空のペットボトルを蓋をしないと二つに折りたたむのが簡単なのに対して、蓋を閉める(横隔膜が下がっている状態と同じ)と二つに折るのが難しくなるのと同じ原理です。重いものを持ち上げる時に、恐らく誰もが無意識にそうしているのではないかと思います。是非このイメージを参考にして下さい。もし、イメージがつかめない場合は、「大便で踏ん張っているときのお腹の状態」が非常に近いです。なお、息を吸うときには横隔膜の動きは特に意識しなくても良いでしょう。

出典:スタンフォード式 疲れない体
(サンマーク出版)

 上述したように、4-7-8呼吸の「8(吐く)」動作をIAP呼吸で実施することで「自律神経を整える4-7-8呼吸」と「疲労回復に効果的なIAP呼吸」を同時に実施出来るのではないかと考えます。確証はないので、皆さんご自身で判断頂ければと思います。

まとめ(コスト計算を含む)

 「呼吸法を極めれば、きっと健康的な人生を送れるはず」と多くの方が思われていると思います。しかし、ヨガや武道の達人にしか習得できないと多くの方があきらめているのではないでしょうか。私もそう思っていた一人です。日本では余り知られていませんが、「4-7-8呼吸」や「IAP呼吸」のように誰もが取り組みやすい呼吸法が生まれ、米国では広く知られています。これらで自律神経を整え、また疲労回復が出来るのならばなんと素晴らしいことでしょう。当然ですが、コストはかかりません。是非、この機会に「呼吸法」に取り組んでみませんか。