新型コロナウイルス感染症(COVID-19ビタミンDは有効か?

 TVや本などにはほとんど載らない情報ですが、「COVID-19感染予防にビタミンDが有効なのでは」という観点からの研究が世界的に行われています。2023年5月17日現在、科学論文検索サイトPubMedを用いて「COVID-19, Vitamin D」をキーワードとして検索をすると、2020年4月からの約3年間に報告された論文などが1615件もヒットします(2022年10月からの7ヵ月間で約250報増えました)。

 下図は2020年5月の論文から図を引用(一部日本語に翻訳)しましたが、欧州20ヶ国の人々の血中の平均ビタミンD濃度と人口100万人あたりのCOVID-19死亡者数及び感染者数の間には負の相関がみられることが報告されています。この結果をみると、「COVID-19感染予防には血中ビタミンD濃度を上げればよい」と直ぐに思われるかもしれませんが、患者一人一人を調べておらず、国を単位として調査したもので、「仮説を提唱できる程度」のエビデンス(根拠)レベルの研究であることに注意が必要です。ちなみに、北欧諸国で血中ビタミンD濃度が高いのは、日光を積極的に浴び、且つビタミンDが強化された乳製品を日常的に摂る習慣があるからだと考察されています。


血中の平均ビタミンD濃度と人口100万人あたりのCOVID-19死亡者数及び感染者数

 その後、「血中ビタミンD濃度とCOVID-19重症度の関連」といった類の研究が各国から報告されています。2022年4月には、ようやく日本からもそれに関連する報告がありました。「日本人においても血中ビタミンD濃度はCOVID-19の危険因子(疾患と関連が疑われる)である」という内容です(注: 血中ビタミンD濃度の記載には、nmol/Lとng/mLがあるのでご注意下さい。下図はng/mLなので上図と比較する場合には2.5倍する必要があります)。

血中ビタミンD濃度とCOVID-19重症度の関連



 2022年5月には、COVID-19 患者への高用量ビタミン D 投与が生存へ与える影響をみた初の臨床試験の結果がフランスから報告されました。COVID-19感染後72時間以内に高濃度ビタミンDの単回経口投与した場合に生存率の改善がみられるかを検証するランダム化比較試験(エビデンスレベルが非常に高い)で、COVID-19 のリスクの高い高齢者 254 人における投与14日後の死亡者数は標準用量ビタミンD投与群(50,000 IU)の患者127人中14人(11%)に対して、高用量ビタミンD投与群(400,000 IU)では患者127人中8人(6%)という結果であり、高濃度ビタミンDの単回経口投与により14日後の生存率が改善されました。また、400,000 IUという非常に高用量投与(投与7 日目の中央値は150 nmol/L) ではありましたが副作用は確認されませんでした。

 以上の結果から、日頃から意識して血中ビタミンD濃度を上げておくことにより、COVID-19の感染、重症化、及び死亡を防ぐ効果が期待できるだけでなく、COVID-19に感染した場合にビタミンDを摂取することで死亡リスクを減らせることが示されました。ちなみに2022年7月に報告された総説があるので、ご参考まで。

COVID-19にビタミンDが効くのではないかと考えられた理由

 上述したように、COVID-19とビタミンDの関連に着目した論文が2020年4月以降に数多く発表されています。武漢市(中国)で最初の患者が確認されたのが2019年12月、米国及び英国でワクチン接種が開始されたのが2020年12月です。したがって、2020年4月に論文が発表されたことが、いかに早いかがわかります。つまり、「ワクチンもない状況下でCOVID-19に立ち向かうには、ビタミンD摂取が有効であろう」と世界中の少なくない数の医者が考え、すぐに調査して論文にまとめたことになります。

 では、「なぜ多くの医者がそのように考えたのか」に関しては、その当時に以下①~③のような報告が存在したことが大きいと考えられます。
①ビタミンDがインフルエンザに有効である
②ビタミンDが抗菌作用及び抗炎症作用をもつ
③ビタミンDがサイトカインストームを抑える制御性T細胞(Treg)を増強する

ビタミンDに対する厚生労働省のスタンス

 2021年7月に国立健康・栄養研究所(厚労省管轄の独立行政法人)から、「COVID-19にビタミンDが効くといえる論文は見当たらない」とアナウンスされています(【追記】2023年4月時点では削除されているようです)。2022年10月現在、エビデンスレベルの高いランダム化比較試験の結果が幾つか報告されていますが、国が現在のスタンスを変えることは恐らくないでしょう。COVID-19ワクチンを普及することが急務な状況下で、(医薬品ではなく)5大栄養素の一つでしかないビタミンDの効果を認めることは避けたいのだと思われます。TVや本には殆ど載らないのも、このあたりの事情を忖度した結果だと思われます。ちなみに海外に目を向けると、COVID-19に対してビタミンDの積極的な利用を呼び掛けたのは、イギリスなどに拠点をもつ業界紙HBWが調査した12か国のうち、イギリス及びチェコ共和国の2か国のみでした(健康産業オンライン2020/6/9)。

私たちに出来ること

 医薬品では有効性と安全性のバランスが重要です。ドラッグストアで入手可能なビタミンDは医薬品ではなくサプリメントですが、同様な考え方が適用できます。有効性に関しては、「ビタミンDの予防効果が期待できる」という内容の論文が多いものの、否定的な結果を示す論文も見られます。安全性に関しては、ビタミンDは脂溶性ビタミンのために、過剰に摂取すると血管壁、腎臓、心筋、及び肺などに多量のカルシウムが沈着する健康障害が知られており注意が必要ですが、「1日当たり4000 IUのビタミンDを2年間経口投与した大規模なランダム化比較試験の結果、健康障害は発生しない」ことが報告されています。したがって、安全性に懸念がればビタミンD摂取を敢えて推奨すべきではないと考えられますが、有効性と安全性のバランスの観点からみて、緊急時のCOVID-19予防対策としてビタミンDを摂取することは妥当と考えられます。

 そこで、COVID-19感染の危機にさらされている状況下では、生活状況*に合わせて、毎日2000~4000 IUのビタミンD(通常1000 IU/錠なので2~4錠)を予防のために摂取する(*日光を浴びる機会が少ない場合は4錠)のが良いと思われます。出来ることなら、病院で血中25(OH)ビタミンD濃度を測定してもらい(3000円前後)、正常(>30 ng/mL)、不足(21~30 ng/mL)、欠乏(<20 ng/mL)のうち、自分がどのレベルにあるのかを確認した後に、状況に応じて毎日2000〜4000 IUを摂取し、しばらく摂取を続けた後(3ヵ月)に再度、血中25(OH)ビタミンD濃度を測定するのが理想的です。

 一方、感染後のビタミンD高用量投与に関しては、エビデンスレベルが高い論文(上述)があるとはいえ、個人の判断で実施するのは避けた方が良いでしょう。400,000 IUは、なんと市販のビタミンD 400錠を一度に摂取する計算になります(実際には医薬品の高用量製剤を使いますが・・・)。


まとめ(コスト計算を含む)

 今回、上記の内容をまとめながら思ったことは、ビタミンDがCOVID-19に対して有効か否かの記述は、書き手次第で如何様にもなるということでした。「COVID-19, Vitamin D」をキーワードとして検索しヒットしたすべての論文に丁寧に目を通して纏まとめ上げない限り、結論ありきで都合の良い論文をつまみ食い出来てしまいます。ただし、有効性と安全性のバランスの観点からみて、緊急時のCOVID-19予防対策としてビタミンDを摂取することは妥当と思われます。なにせ、COVID-19では死亡する可能性があるのですから。

 一方、厚生労働省及びマスコミはまったくと言ってよいほどにビタミンDの効果の是非に関して取り上げません(イソジンでさえ話題にしたのに何故?)。

 上記の製品が、90錠(1000 IU/錠)で680円です。毎日2~4錠摂取する場合、1日当たり15~30円と非常に安価です。なお、ビタミンDの活性化にはマグネシウムが不可欠ですが、多くの方がマグネシウム不足の状態にあると報告されていることにご注意下さい。マグネシウムが豊富に含まれる食事やサプリメントを摂取した上でビタミンDを摂取しないと、ビタミンDが有効に働かないばかりか、ビタミンDがマグネシウムと結合することで体内のマグネシウムが枯渇する可能性があります。

 ビタミンDは現代の日本人には まったく足りていないことが、東京慈恵会医科大学により2023年6月に報告されました。詳細は他項「がん発症リスクを抑える栄養素(日本人で不足)が論文発表されました」をご覧下さい。なお、この表題から分かるように、ビタミンDは がん のリスクも抑えることが分かっています。